003 頸椎症

2014年11月 9日 (日)

更年期とめまい他 (2001/12/10)

◆めまいを訴える更年期50代の女性○さん 10年来、季節の変わり目ごとに肩こり、頭痛、腰痛、めまい感などで来院されている方。以前から肩や首のこりが高ずると頭痛・頭重と共に軽いめまい感(浮遊感)に見舞われている。 小柄でよく身体が動く働き者。ここ数年は「楽をして」仕事はしていない。そのためもあってか少々太り気味。 昨年より閉経に伴って「冷えのぼせ」症状がひどく、婦人科でホルモン補充療法を受けている。 女性ホルモンが急に減ってくる時期には、全身の筋肉の硬さが増してくる。筋緊張性の「こり」とは違った印象がある。特に背部から肩や首にかけての筋肉が硬く、一般的なこりの処置では効果は一時的でなかなか頑固である。 男性でも更年期に該当するような時期の人には、似たような筋肉の硬化現象が見られたりする。 甲状腺(副甲状腺も含む)の病気の場合などでもやたらに全身の筋肉が硬くなって、通常の「肩こり」とは違った印象をもった「こり」現象が見られることがある。 骨格筋は、女性ホルモンなどによってその性状がかなり変動するようで、単純な緊張性・疲労性・神経筋性のこり等とは異なった病態をもっている。従って養生や治療も「こり」の部位に注目するより、より全身的な要素が大切である。

めまいの病態は、つきつめれば内耳の自律神経失調症と考えて良いのではないかと思われる。メニエル氏病にせよメニエル症候群にせよ良性頭位性にせよ、平衡機能を調整する内耳とその周辺に病の巣がある。
全身的な要因としては、末梢循環の変動である「のぼせと冷え」による頭部の血液分布のアンバランスその変化の大きさが引き金になる。
漢方的には、水分の停滞という見方もできるようである。
局所的には、耳の後ろから後頭部にかけての首筋の「こり」に着目すべきである。
生活上は、なんと言っても睡眠につきる。これは、睡眠時間ではなく、熟睡の時間というべきで、藤野先生曰くの「脳疲労」を改善するような深い眠りができているか否かということになる。不眠=脳疲労→内耳の自律神経失調症→めまい、という単純な図式も間違っていないだろう。
メ ニエルの大家とされる福岡のS病院の耳鼻科の先生は、「精神安定剤漬け」といってよいほどの処方をされて揶揄されかねないようだが、どんな方法でも良いか ら「眠らせる」ことは基本的には良いことだと思う。もっとも、そこに至る過程で養生の観点が希薄で、ただ薬圧で圧倒するだけには疑問もあるが。
そして最後にもっとも重要な要因と考えられるのは、やはり心の問題であって、この場合も「不安」がめまい症状を倍加し固定し難治化させるのではないかと思う。
軽 いめまい感が、更年期の循環器神経症的な動悸や胸部圧迫感、のどの閉塞感などと前後して発現すると、一気に切迫的な恐怖症の様相を示し、やがてパニック的 な発作を起こし、そのパニック的な体験は心に深く記銘され、平衡感の感覚の軽微で微妙な変化ですら発作を「予知」させるようになるのではないか。

◆首の短い人は頸部神経痛
俳優の西田敏之が頸椎椎間板ヘルニアで手術したという話を、件の患者さんから聞かされて、「あの人も首が短いでしょう」と二人で納得しあう。
美容室で仰向いて洗髪する姿勢も、該当するような体型の人にとってはとても危険である。

◆首の寝違い
大方の痛みが取れても、あと少し肩から首の横筋にかけてツッパリが残っていた女性の場合。肘の下方で手のひら分ほど小指に向かった骨の際、支正というツボに鍼をすると直後に首から肩にかけての横筋のツレがなくなる。

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肥満の改善なしに膝痛が改善する訳 (2001/12/03)

◆膝痛を訴える標準体重15キロオーバーの女性○さん
40台前半のこの女性は、甲状腺腫の切除手術後ここ数年体重が身長換算体重から15キロほどオーバーしている。何らかの代謝異常も考えられるような太り方。
半年前からパートで保母の仕事に復帰している。
一ケ月前、子供を抱いた姿勢で床近くの低い場所の物を操作したときに左膝を捻り、それ以来左膝のお皿(膝蓋骨)周囲に動作時に痛みがあり、子供の世話をするのにも困難を感じている。
近くの整形外科では、減量と保母の仕事を休んではとされ、鎮痛薬を処方される。保母が不足がちで休みにくいとのことで来院される。
10年ほど前から時々診ている患者さんで、久しぶりに拝見して肥満の程度に少し驚いたが、本人はいろいろと減量法も試み、食生活にも気をつけている所からすると、何らかのホルモンバランスが体重増加の一因かも知れない。

小さな子供を低い位置から抱き上げる時には、膝を上手に使わないと腰も痛くなることはご本人も自覚されており、今回の「ケガ」も十分に腰を落とさず半身の形で膝を捻りながら曲げたことが直接要因と考えられる。
膝 関節の捻挫などの「ケガ」で軽度のものは、関節内障害略して「内障」と呼ばれたりする。本式に靱帯や半月板の一部が破損したり断裂したりするほどの「ケ ガ」ではないが、半月板の「縁」や関節の袋の一部は「捻りながら曲げる」動作を行うと、関節部やお皿の間に「挟み込まれて」損傷してしまうことがある。
特にお皿の骨の周りの組織は、大きく屈伸するときに大きく移動する皿の骨と股の骨の間に「挟み込まれ」るような状態になりやすいようだ。
運動軸が1~2本の関節(ちょうつがい)では、どういう場合でも「捻りながら曲げる」ような複合連続動作は、関節の内部とその周辺部の「装置」を破損してしまう危険性がある。

この女性も、直接的に傷めている部位はお皿の内側の下縁付近であり、そこの生じている「キズ」がふさがり丈夫な組織に修復しなければ痛みは無くならない、ということになる。だから、安静と休養は第一条件であろう。
減量の意義は、屈伸時に膝にかかる荷重がより少なければ関節とその周囲への無理が少なくなる、ということでこれも条件の一つであることには違いない。
だがしかし、問題はもう少し複雑であって、下肢の筋力、脛とふくらはぎの筋肉の柔軟性=>足首関節の柔軟性と耐荷重能力などについても検討する必要がある。
(膝痛とふくらはぎ 股と膝と足の「並び」 の項参照)
この女性は、ふくらはぎの深部(内脛の骨のすぐ際から深くに触れる)の強い筋肉の強ばりを解いてやることで、「体重はそのままで」「大して休養もとらず」に膝痛は半減し、週1回4週ほどでほぼ仕事中の痛みは消失した。

ふくらはぎの深部(ヒラメ筋とか足底筋など)のこわばりは、万人共通といえるほど誰もが硬く、「握圧」すると飛び上がらんばかりの痛みを示す。
私の理論、「支持系筋のこわばりとその改善」の仮説は、関節内障害であっても関節炎であっても関節周囲障害であっても同様に養生と治療の基礎理論になると考えている。

◆猪首の×さんの頸腕神経痛
障害が軽度で治療も早かったこともあり順調に回復している。
このような神経痛の場合、首→肩→腕→手の順に症状が出現し、同じく首→肩→腕→手の順に症状は軽減し消失していく。つまり、この方の場合、手の甲の痛みとシビレ感の改善が最も遅れ、感覚のマヒが最後まで残る。
治ゆした後も、正月に向けての高所での大ばさみによる剪定作業は、今年は止めた方が安全である。

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2014年10月26日 (日)

エヘン虫の咳の正体は (2001/11/26)

◆就寝後しばらくすると咳がでて、それが数時間続いて熟睡できないという△さん。
呼吸器病で定評のあるM病院での診察では呼吸器には問題なく、臥位で食道から胃酸が逆流してのどを刺激しているのではないか、とのことで制酸・健胃薬を投与されるが、約1週間の内服でも症状は軽減しない。
鍼灸治療としては、のどや気管粘膜に「潤い」が得られることを期待して、首や胸や腕にツボをとるけれど、これらでうまく行かぬ時の最後の手段として「米山流」の咽喉刺という手技が効を奏することが少なくない。

この△さん、咽喉刺の直後から咳は減少し、同夜にはほとんど咳は半減、翌日にはほぼ止まり、3日後の来院時にはほぼ平常に戻る(つまり、平常時でも「カラ咳」を時々する)。
咽喉刺は「秘伝」みたいなもので、誰にでもできる・誰にもするわけには行かない。
咽喉刺は、「咳止め」ではなくのどの粘膜を正常化する働きがあるのではないかと考えている。だから、痰の出ない過敏症状としての咳には「鎮静・鎮咳」の、炎症によるのど痛と痰と咳には「消炎・鎮痛・去痰」の効果が期待できる、と考えている。

普通感冒後に気道感染症の症状がほとんどないのに夜間就寝後しばらくすると出てくるしつこい咳や、風邪とは関係なく年中ちょっとした刺激で誘発される場合の咳などは、のど粘膜の「痒み」で咳反射が高進した状態ではないか。
感染性の炎症はなくなってものどの粘膜に何らかの「荒れた」状態が残っているのかも知れないし、のどの粘膜が痒くなりやすい「乾燥症」なのかもしれない。とにかく「のどの粘膜の過敏症」と考えると解りやすいのではないか。

話としては、耳をいじると咳が誘発される人たちがいて、このような人は、のどの粘膜の神経と外耳道のそれとが繋がっているのではないかと推測された りする(胎生初期にはのどと外耳道とはエラ組織の一部として隣接しているそうだ)。Tさんは典型的なこのタイプの人で、年中カラ咳を頻発していて、時に (カゼの後などとは限らず)それは発作といえるほどの苦しげな症状を呈されていた。
△さんの経過は良いが、あまり痰も出ず、熱発などもない、得体の知れない、あるいはどこにでもいるような病原体による日和見感染の疑いも頭の隅に置いておくこと(異型性の気管支炎や肺炎には特効的な抗生剤がある)。

◆短めの首の人は、首の仰向け動作に要注意! ×さんの場合。
首の短い「猪首」の方は、首の後屈(後ろに曲げる)動作や作業などによって、頸部神経障害が引き起こされる危険性が大きい。
一般的に頸部の後屈姿勢は、頸部脊髄や神経根に対する圧迫牽引の力がかかりやすいと言われている。特に首が短めの「猪首体型」の人では、この傾向がより強く、中高年の男性では首を後屈した姿勢での作業後に神経障害-神経痛やシビレ-が起こることがよくある。
× さんは、60台半ばの男性、首が短い。農作業用トラクターの車体底部をのぞき込むような姿勢での短時間の作業後に頸部から腕にかけての神経痛様の疼き痛み 発症。夜も首と腕の疼きのために眠りづらい。シビレ感と軽い知覚障害も手の甲から前腕に認められる。力はほんとんど正常。頸椎症や頸椎ヘルニアによる頸神 経痛とされるような例。
このような体型の人は、「うがい」や首の体操のような姿勢動作でさえ頸神経を傷めることがある。大工、植木屋、塗装業などの職人さんは、上を向いて首を後ろに曲げた姿勢が続くような作業はとても危険である。
×さんは、神経障害も軽く、順調に回復すれば2~3週間で疼き痛みは軽快するだろう。シビレ感の回復はもう少し日数を要するだろうが。
この頸腕神経痛の例でも、疼き痛む腕部を「冷やし」、頸部鎖骨下部を「暖める」ようにアドバイスしたところ、発作状態の疼きが速やかに消退したとのこと。

◆長年の課題の自発痛の成立と治療について貴重な体験をさせてもらっている○さん。
特定処置中(腎透析)に出現・増悪する肩首痛と肩関節部の腫脹について。
週2~3回の治療を2週続けた後、肩関節の前方部の水腫様の腫脹は、まず内容物が半減し、次いで包状組織も膨れた状態から縮んで正常状態に近くまで波を現している。仰臥位でしばらくすると同部に自発痛が出現する。これは、座位をとるとしばらくして改善消失する。
姿勢も大きな要素であるらしく、仮説「還流障害で微細局所の組織内圧が高まった結果の発痛とその消退」は、「肩周囲の包状組織の一部が何らかの理由(姿勢など)で窮屈になる」ことが最初の引き金となる、を付け加えるべきかも知れない。
また、身体全体の水分貯留・むくみなど「組織内の水圧の高進」も誘発要因となっているかも知れない。
養生法「流れ込む側を冷やす・流れ出る側を暖める」に加えて、何らかの方法で「腕を釣る」ようにして肩関節周囲をできるだけ自然にルーズにすることも重要である。
これは、五十肩の自発痛が相当に強く難儀した宗教家の×さんが、「疼きは風呂に浸かると、ただちにウソのようになくなる」と言い、三角巾で腕を釣っていたことや、プール入水中に同様の現象が認められることなどからも推測されること。
比較的相対的に閉じられた微細な組織間隙が生じ、その空間で流入量が流出量を上回るような状況となったとき、内圧の高進が「疼き」を生ぜしめるのではないか。

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