006 自発痛

2014年10月26日 (日)

エヘン虫の咳の正体は (2001/11/26)

◆就寝後しばらくすると咳がでて、それが数時間続いて熟睡できないという△さん。
呼吸器病で定評のあるM病院での診察では呼吸器には問題なく、臥位で食道から胃酸が逆流してのどを刺激しているのではないか、とのことで制酸・健胃薬を投与されるが、約1週間の内服でも症状は軽減しない。
鍼灸治療としては、のどや気管粘膜に「潤い」が得られることを期待して、首や胸や腕にツボをとるけれど、これらでうまく行かぬ時の最後の手段として「米山流」の咽喉刺という手技が効を奏することが少なくない。

この△さん、咽喉刺の直後から咳は減少し、同夜にはほとんど咳は半減、翌日にはほぼ止まり、3日後の来院時にはほぼ平常に戻る(つまり、平常時でも「カラ咳」を時々する)。
咽喉刺は「秘伝」みたいなもので、誰にでもできる・誰にもするわけには行かない。
咽喉刺は、「咳止め」ではなくのどの粘膜を正常化する働きがあるのではないかと考えている。だから、痰の出ない過敏症状としての咳には「鎮静・鎮咳」の、炎症によるのど痛と痰と咳には「消炎・鎮痛・去痰」の効果が期待できる、と考えている。

普通感冒後に気道感染症の症状がほとんどないのに夜間就寝後しばらくすると出てくるしつこい咳や、風邪とは関係なく年中ちょっとした刺激で誘発される場合の咳などは、のど粘膜の「痒み」で咳反射が高進した状態ではないか。
感染性の炎症はなくなってものどの粘膜に何らかの「荒れた」状態が残っているのかも知れないし、のどの粘膜が痒くなりやすい「乾燥症」なのかもしれない。とにかく「のどの粘膜の過敏症」と考えると解りやすいのではないか。

話としては、耳をいじると咳が誘発される人たちがいて、このような人は、のどの粘膜の神経と外耳道のそれとが繋がっているのではないかと推測された りする(胎生初期にはのどと外耳道とはエラ組織の一部として隣接しているそうだ)。Tさんは典型的なこのタイプの人で、年中カラ咳を頻発していて、時に (カゼの後などとは限らず)それは発作といえるほどの苦しげな症状を呈されていた。
△さんの経過は良いが、あまり痰も出ず、熱発などもない、得体の知れない、あるいはどこにでもいるような病原体による日和見感染の疑いも頭の隅に置いておくこと(異型性の気管支炎や肺炎には特効的な抗生剤がある)。

◆短めの首の人は、首の仰向け動作に要注意! ×さんの場合。
首の短い「猪首」の方は、首の後屈(後ろに曲げる)動作や作業などによって、頸部神経障害が引き起こされる危険性が大きい。
一般的に頸部の後屈姿勢は、頸部脊髄や神経根に対する圧迫牽引の力がかかりやすいと言われている。特に首が短めの「猪首体型」の人では、この傾向がより強く、中高年の男性では首を後屈した姿勢での作業後に神経障害-神経痛やシビレ-が起こることがよくある。
× さんは、60台半ばの男性、首が短い。農作業用トラクターの車体底部をのぞき込むような姿勢での短時間の作業後に頸部から腕にかけての神経痛様の疼き痛み 発症。夜も首と腕の疼きのために眠りづらい。シビレ感と軽い知覚障害も手の甲から前腕に認められる。力はほんとんど正常。頸椎症や頸椎ヘルニアによる頸神 経痛とされるような例。
このような体型の人は、「うがい」や首の体操のような姿勢動作でさえ頸神経を傷めることがある。大工、植木屋、塗装業などの職人さんは、上を向いて首を後ろに曲げた姿勢が続くような作業はとても危険である。
×さんは、神経障害も軽く、順調に回復すれば2~3週間で疼き痛みは軽快するだろう。シビレ感の回復はもう少し日数を要するだろうが。
この頸腕神経痛の例でも、疼き痛む腕部を「冷やし」、頸部鎖骨下部を「暖める」ようにアドバイスしたところ、発作状態の疼きが速やかに消退したとのこと。

◆長年の課題の自発痛の成立と治療について貴重な体験をさせてもらっている○さん。
特定処置中(腎透析)に出現・増悪する肩首痛と肩関節部の腫脹について。
週2~3回の治療を2週続けた後、肩関節の前方部の水腫様の腫脹は、まず内容物が半減し、次いで包状組織も膨れた状態から縮んで正常状態に近くまで波を現している。仰臥位でしばらくすると同部に自発痛が出現する。これは、座位をとるとしばらくして改善消失する。
姿勢も大きな要素であるらしく、仮説「還流障害で微細局所の組織内圧が高まった結果の発痛とその消退」は、「肩周囲の包状組織の一部が何らかの理由(姿勢など)で窮屈になる」ことが最初の引き金となる、を付け加えるべきかも知れない。
また、身体全体の水分貯留・むくみなど「組織内の水圧の高進」も誘発要因となっているかも知れない。
養生法「流れ込む側を冷やす・流れ出る側を暖める」に加えて、何らかの方法で「腕を釣る」ようにして肩関節周囲をできるだけ自然にルーズにすることも重要である。
これは、五十肩の自発痛が相当に強く難儀した宗教家の×さんが、「疼きは風呂に浸かると、ただちにウソのようになくなる」と言い、三角巾で腕を釣っていたことや、プール入水中に同様の現象が認められることなどからも推測されること。
比較的相対的に閉じられた微細な組織間隙が生じ、その空間で流入量が流出量を上回るような状況となったとき、内圧の高進が「疼き」を生ぜしめるのではないか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年10月19日 (日)

自発痛の成り立ち (2001/11/19)

長年疑問としてきた自発痛の成り立ちと治療について貴重な体験をさせてもらっている○さん。
特定の処置中に増悪する肩痛と腫脹について、既成の整形外科的な見方で理解したとしても対処できにくいのであれば、見方を少し変えてみるとよい。教科書やレポートに学ぶ前に目の前の患者さんに学べば、もっと違った見方や対処が可能ではないのか、という見本ともいえるような例。
フロック、まぐれ、心気傾向と暗示効果などなどと言われてしまうほどの良い結果で、○さん共々大喜びしている。
自発痛にせよ神経痛にせよその消長の観察から得られる推理仮説は、還流障害で微細局所の組織内圧が高まった結果の発痛とその消退。作業仮説としての養生法「流れ込む側を冷やす・流れ出る側を暖める」が、実際の症状緩和によって確かめられれば、的を射ていることになりはしないか。
素直に事実を見つめ学ぶこと、初心に帰ることの難しさが改めて問われている。

就寝後しばらくする咳がでて、それが数時間続いて熟睡できないという△さん。
粘液性の痰で悩まされている小生と違い、ほとんど痰は出ない。日頃から声枯れしやすくのどを痛めやすい。熱発もない。のど痛は少し。カゼということで葛根湯や抗生物質など服薬するも無効。気管支肺炎を心配しての検査も問題なし。
こんな咳発作は中年から初老期の女性には多い。就寝に限らず臥すだけで出ることも少なくない。

のどの粘膜の過敏性が問題なのだと考えられる。のどの粘膜の過敏性は、カゼなどの炎症によるとしてもその炎症の種類が普通感冒の場合とは違うのではないか。
背景にのどの粘膜の過敏性がまずあり、それが空気の乾燥、冷気、臥位での神経反射、臥位で気管粘膜のクリーニング機構が活発なること(痰の生成)、などの条件を得て「咳」となるのではなかろうか。
のどの粘膜の感覚は非常に鋭敏かつ「記銘」されやすいもので、魚の小骨や錠剤をのどに引っかけた後などはいつまでもその感覚が去らず、耳鼻科で確認してもらいたくなることも少なくないようである。
のど粘膜の鋭敏性は、燕み下しの時に気管に異物が入らぬように仕組まれている燕下反射のセンサーとして大切な故であろう。

最近、初老期女性の慢性膀胱炎や神経性膀胱について、膀胱粘膜の表面ではなく深部に炎症像(非細菌性の間質性炎?)がみられるということが言われている。
乾燥肌の人は、冬季ともなると入浴や就寝、肌の露出などで皮疹を伴わない痒みに悩まされることが多くある。老人では特に皮膚の脂肪層が薄くなり水分が失われやすくなって痒がる人が少なくない(老人性掻痒症)。
のどの粘膜でこのような現象が起きている可能性がありはしないか。
鍼灸治療としては、のどや気管粘膜に「潤い」が得られることを期待して、首や胸や腕にツボをとる。

養生法として、痰が多くて切れにくければ大根汁がよく効く。上記のように痰が少なければ就寝前に蜂蜜ドリンクを用意し枕元において少しずつ、一口ずつ含むようにする。軽く絞った濡れタオルをスタンドにかけて枕元に置く。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年10月12日 (日)

還流系(静脈・リンパ)の障害が自発痛の成因か? (2001/11/12)

◆私の鍼灸臨床で最も手を焼く症状として、①急性期の重症の根性坐骨神経痛、②五十肩(肩関節周囲炎など)の急性期の(夜間)自発痛、などがあげられる。

◆「痛み」と「疼き」の違いを言葉としてこだわって使い分けられた東北出身の女性がいた。それは、「痛いのでなくて、痛むのよ」といった感じであったが、言ってみれば動かして痛むのではなく、じっとしていても痛むということを言いたかったのだろうが、少し専門的な言い方をすれば運動痛と自発痛ということであったわけである。

◆漢字の痛と疼の義もおおよそそのような意味をもっているようで、疼痛は運動痛と自発痛を区別せずに総称した術語になっている。実際的にそう厳密に区分する必要がない場合もあるということであろうか。

◆五十肩の夜間自発痛や坐骨神経痛の疼きはとてもやっかいなもので、動作や姿勢に関係なく(実際は姿勢は大きな要素なのだが)、安静状態で何もしなくても「ズクズク・ズキズキ・ズンズン」から「ダル痛くて切って除けたい」と何とも表現しにくい「疼き」である(私は「ダル病み」と呼んでいる)。

◆自発痛の原因については、たいていの場合「炎症」ということで片づけられる。確かに皮膚の化膿性炎症でズクズクと痛むのは大抵の人は体験済みであろう。膝の非化膿性関節炎の痛みの体験者も多いだろう。リウマチ性関節炎の自発痛も相当に辛いもののようである。

◆非化膿性の関節や筋の炎症には、抗炎症鎮痛薬やステロイドホルモンなどが使われ良く効くが、五十肩や坐骨神経痛の急性期の強い自発痛に対する効果にはやはり一定の限界があるようだ。もちろん鍼灸の効果もそう大きくはないけれど。

◆炎症の生化学的メカニズムはかなり詳細に解明されており、薬物研究の進歩も大したものであるけれど、古い歴史をもった生薬系の有効成分の研究から生まれたアスピリンやインドメタシンなどのような薬も未だに現役として大いに活躍しているからようだから何とも・・・

◆炎症でもそうであるけれど「自発痛」の生化学的メカニズムの究明に対して、機械的・物理的メカニズムの究明は「しつくされた」感があるのか通り一遍であるような印象がある(つまり治療に生かされる部分が少ないような)。(血行)循環障害というのがそれである。

◆五十肩の夜間自発痛について、骨髄内の圧力に着目した研究報告があった。1970年代のレポートでその後、整形外科の専門誌を追いかけていないのでどうなっているかよく分からぬが、教科書的な書物には「癒着性滑液包炎」が五十肩の自発痛の成因であるような書き方が普通のようである。

◆つい最近、長年疑問をもっていた「自発痛」の成因(物理的メカニズム)について考えさせられる非常に興味深い患者さんに治療させてもらう機会があった。

◆腎臓人工透析歴20年、10年前から透析開始後2時間ほどで右肩の肩峰の下方が腫れてきて「疼く」、非常な痛みである、それと前後して肩甲骨上部から首筋にかけて痛む(神経痛様のダル病み)。 痛みは透析後まで一定時間続く。肩関節部の腫れも翌日まで続く。 関節の可動域は正常で動作痛はない。 10数年前、実際に五十肩(凍結型)で夜間痛の経験もあり、「凍結解凍」に1年半ほど要した。

◆長年透析をしている人には、関節周囲や関節内に「何かが溜まって」結節状をなすことあるらしい(アミロイド・タンパク?)。透析中に肩関節周囲が痛む方も少なくないらしい。

◆肩関節部の腫れは、その消長経過や発赤や熱感などの炎症症状がないことなどからも炎症性の腫脹とは考えられない。

◆人工透析は、透析装置に血液をバイパスするために前腕の皮静脈を使うことが多いらしい(シャント形成)。 透析された血液は静脈中を還流するから、腕部の静脈圧は上がり皮下リンパ流も増加して圧力も高まっているはずである。 透析も仰臥位ではなく座位の方がより楽である。

◆この患者さんの肩の腫れは透析翌日の初回治療時にも見られたが、鎖骨下・大胸筋部と腫脹部の皮下刺(1ミリ前後)で30分ほどの治療後には半減してしまった。

◆肩の腫脹部の近位端(より体中心に近い方)から腕にかけて冷やす、胸から肩首にかけて暖める、と透析中の養生をアドバイスする。効果の程はまだ未知数。

◆腫脹部への流入量を減らし(皮下静脈を縮めリンパ流を抑制る)、流出量を増やす(皮下静脈を広げリンパ流を促進する)、という単純な考え方だけれど、本当はコロンブスの卵ではなかろうか。

◆この患者さんの透析中の肩部の腫れと自発痛は、透析中に同部へのリンパ還流量の増量が、五十肩・凍結型の既往によって何らかの機能低下を引きずっている肩関節周囲の包状組織に貯留し腫脹させ、組織内圧が異常に高まってしまったことがその物理的要因ではないだろうか。

◆還流系(静脈・リンパ)の障害による組織内圧の高進状態が、「自発痛」を発生させている「傷害状態」ではなかろうか、という仮説。

| | コメント (0) | トラックバック (0)