013 めまい

2014年11月24日 (月)

めまい2題 (2002/07/15)

◆Tさん53歳のめまい
Tさんは、10数年前から年に数回ほど肩こりや胸部圧迫感を訴えて来院されていた。
1年半ほど前、嘔吐と耳鳴りを伴う突発的な回転性めまいの発作があり、耳鼻科ではメニエル氏病とされ抗暈剤と精神安定剤を投与された。同時期に受診した婦人科では、強い不安感や冷えのぼせや肩こり頭痛から更年期障害とされ、ホルモン補充療法を受けている。
めまい発症当時から当院にも来院されるが、不安感が強く継続的な鍼灸治療はできなかった。
めまい発症から3ケ月ほど経過した時点で、再度受診され、それ以来週1回継続的な治療を行っている。

再来時、回転性のめまい発作はないが、頭の位置を変えるとしばらくめまい感(浮遊・動揺感)があり、立位で身体が揺れる動揺感、床の傾斜が強く誇大に感じられて体が傾いたり倒れそうになる強迫感がある。歩行時には雲の上を歩いているようでだんだん斜めに進んでしまう。
耳鳴りについては、よく聞くと首筋が凝ったときに「ボツボツ・ザーザー」といった音がする程度で、これは血管雑音と考えられる。めまい初発時の耳鳴りの詳細は不明。
冬から春にかけて、頭部顔面の熱感と足が冷たくてジンジンする冷えのぼせ症状が強く、特に室内外の温度差のある状況で強く誘発される。冷えのぼせ症状がはっきりと出ているときは、胸部が圧迫されるようで頭が重たく、めまい感も増強する。
頭部のぼせ感がないときにも、下腿から足にかけてはジーンとした感覚があるが、必ずしも冷えは伴わない。
不安傾向の強い方で、最初のめまい発作が強く印象づけられているためもあるのか、「めまい」感に過敏に反応される。

更年期の「頭部のぼせ循環不全」、生来の不安心気傾向、不眠による脳疲労が重なり、頭部の内耳・前庭迷路系に何らかの循環機能異常が生じた結果、最初のめまい発作があったものと考えられる。
こ の時の内耳の機能障害の範囲が広く、迷路系だけではなく蝸牛系(聴覚域)にも何らかの異常があり、耳鳴り・難聴など症状が同時に強く出ていればメニエル氏 病とされるのだろうが、この方の場合は、蝸牛系の異常はそう大きくなかったのではないかと推測している。精密な測定を行えば、軽い難聴はあるかも知れない が、耳鳴りに関しては内耳性ではないようである。

初発の回転するめまい発作が収束した後に続発しているめまい感は、迷路系の障害そのものではなく、姿勢を維持するための統合された制御の仕組み全体の不調として考えると分かりやすい。

興味深いのは、通常は意識されるほどではないベランダの床の外側への僅かな傾斜が過大に感じられると、体が傾いてしまうような平衡覚の違和となる が、下腿から足部のジンジンする感じが強いほどその傾斜感が強く、ジンジンがないと傾斜感もなくなるという。これは、道路を歩くと真っ直ぐに歩けずに路肩 に偏ってしまうという話にも通じる現象のようである。真っ直ぐに立ち続ける場合でも、僅かな体動揺が収束調節されずに増幅してしまうものと考えると分かり やすい。

Tさんは、下腿ふくらはぎの筋肉の緊張を解いてやるような治療で、足部のジンジンは軽減し、かつ動揺感も軽減する。また、手の合谷にやや強い鍼をす ると、頭部のぼせ感が改善すると共に足部の厥冷も改善し暖かくなり、ジンジンとした感じもなくなり、同じように動揺感も少なくなる(自宅療法の足湯も同様 の効果がある)。

◆Cさん42歳のめまい
Cさんは4年ほどにめまい発作を起こし、それ以来、めまい感と頭重・頭痛に悩まされ、2年前に福岡に転居した頃から一時期は「うつ」症状もあったとのことで耳鼻科、心療内科に通っているという。緊張しやすく心気傾向の強い方である。
初発のめまい発作の病状も程度も不明な点が多く、真性の回転性めまい発作であったかどうかは分からないが、続発しているめまい感に関しては「良性頭位性眩暈」と診断されているようだ。

Cさんの場合は、体動揺感や浮遊感ではなく、頭の位置を変えた直後(姿勢・体位が変わった直後)に「頭がフワーッとして流れる」ようなめまい感で、そのめまい感を予期し予防を試みているのか、頭の位置の固定を強く意識している様子である。
心療内科の先生は、頭(重)痛については筋緊張性頭痛と診断しているらしく、それは頭の位置固定を意識してか首筋の筋肉に強い緊張がみられることからもうなずける。

脊椎動物の前後と腹背を定め身体位置を三次元空間の中に位置づけ、また変位をモニターする装置が、前庭迷路系である。それぞれ直角に交差する三半規管と卵形嚢は、迷路を収納している頭部と重力世界との位置関係を感知し続けている。

姿勢制御にとってまず一次的に重要な頭部定位は、この前庭迷路系と視覚系による一次入力データが、眼筋頸部筋群の作業を誘導し、同時にその作業デー タと位置データが二次的な入力データとなることで、ひとまずは完遂されるらしい。姿勢制御における眼筋頚筋反射の重要性の所以である(発生的には「首座 り」、「探索位獲得」ということになろう)。

ひとまず定位された頭部は、直ちに(あるいは同時に)体躯の定位を要求し、陸棲四足動物では体肢(五本目の足の尻尾も含み)の、水棲動物では鰭と尾 のそれぞれの作業が誘導され、その作業データと位置データは、逐次的な入力データとして姿勢動作の統合に導かれる。体性姿勢反射の由来である(発生的には 「四つ這い」「お座り」「つかまり立ち」そして「一人歩き」、「運動位獲得」ということになろう)。

ところで、これだけでは単なる自動運動に過ぎないのであって、個体の意志による(と見られる)各種の行動における姿勢制御は、前述の自動運動的(反 射的で不随意的なと呼ばれたりする)な姿勢反射が、行動に向けた個体意志の統合下にありながら、かつ細部にわたっては支配されない仕組みによって完成され ているように思われる。

運動の随意性と不随意性についてはもっと考える必要があるが、大略としては間違っていないだろう。

われわれは動物は、意識し意志することなく、「正しく適合された」肢位と姿勢と動作が自ずから可能なように、自らをプログラムし、ロボット様と形容 されるようなぎこちなさではなく、しなやかな動きを実現してきた。そこに余計な「はからい」が介入すれば、まさしくロボットの様なぎこちなさが見られるこ とになる。
無心で、力まず、力を抜いていなければ、姿勢も動作もより効果的ではなく、そして美しくもない。

Cさんの場合、頸部筋の緊張と姿勢「不安」の悪循環をどこで絶てるかに治療の正否はかかっている。
真っ直ぐ正面を向き少しこわばった顔が、治療後には肩や背中の緊張が緩むとともに柔和に自然になる。
この良循環を繰り返し経験してしっかりと学習すれば、めまい感や頭痛から卒業できるのではないかと考えている。

膝痛追加
◆Mさん71歳の膝痛
前回、スポーツ選手と中高年者の運動器障害には、相似的な発症病態があるととらえ、
スネとフトモモの支持系筋群の協調性低下→膝関節の動的安定性低下→膝内半月板軽微損傷
という連鎖構図で、「癖になった」膝痛の診方を例示した「寝返りをうった拍子に同様の膝痛を発症したMさん71歳」が、また同様の発症経過をとった強い左膝痛で来院された。
今までは数日で痛みが半減していたのが、今回は左脚に加重する痛みが軽減せず、家人の勧めもあり整形外科に行って診察を受け、レントゲン写真を根拠に、関節の変形で棘が出ており、関節間隙が狭くなり、中がすり減ったための(半月板あるいは軟骨か)膝痛とされたとのこと。
M さんの「癖になった」膝痛は、外側半月板の外縁がフトモモとスネの骨に挟まれて部分的に圧潰したための膝痛と診ている小生は、下腿内側縁から深い部分の筋 肉の凝りを狙った鍼をして、かつヒラメ筋の握圧法を施し、そして背臥位自然体位で足首から下腿をゆっくりと無理なく牽引し、さらにゆっくりと自然に屈曲す る動作法を行った。
術後は、加重できなかった左膝に加重できる、歩行もなんとか可能、となる。
3回目の治療時には、午前中は立位で膝加重してもほとんど痛まぬが、午後になると次第に痛くなり、仕事を終える頃には加重できにくくなるという。
このような症状の発現現象は、半月板縁の傷が十分に修復していないところに、下肢筋の疲労(特にヒラメ筋や膝窩筋)によって膝関節の静的・動的な安定性が損なわれる結果ではないかと考えられる。

間違っても、関節変形や構成体変性が単純に痛みに結びつくのではないと思う。
どのような病態であっても、流動する機能連鎖のその相互的総合的な関係の網の目のそれぞれが原因となり結果となりうるのだと。

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2014年11月 9日 (日)

更年期とめまい他 (2001/12/10)

◆めまいを訴える更年期50代の女性○さん 10年来、季節の変わり目ごとに肩こり、頭痛、腰痛、めまい感などで来院されている方。以前から肩や首のこりが高ずると頭痛・頭重と共に軽いめまい感(浮遊感)に見舞われている。 小柄でよく身体が動く働き者。ここ数年は「楽をして」仕事はしていない。そのためもあってか少々太り気味。 昨年より閉経に伴って「冷えのぼせ」症状がひどく、婦人科でホルモン補充療法を受けている。 女性ホルモンが急に減ってくる時期には、全身の筋肉の硬さが増してくる。筋緊張性の「こり」とは違った印象がある。特に背部から肩や首にかけての筋肉が硬く、一般的なこりの処置では効果は一時的でなかなか頑固である。 男性でも更年期に該当するような時期の人には、似たような筋肉の硬化現象が見られたりする。 甲状腺(副甲状腺も含む)の病気の場合などでもやたらに全身の筋肉が硬くなって、通常の「肩こり」とは違った印象をもった「こり」現象が見られることがある。 骨格筋は、女性ホルモンなどによってその性状がかなり変動するようで、単純な緊張性・疲労性・神経筋性のこり等とは異なった病態をもっている。従って養生や治療も「こり」の部位に注目するより、より全身的な要素が大切である。

めまいの病態は、つきつめれば内耳の自律神経失調症と考えて良いのではないかと思われる。メニエル氏病にせよメニエル症候群にせよ良性頭位性にせよ、平衡機能を調整する内耳とその周辺に病の巣がある。
全身的な要因としては、末梢循環の変動である「のぼせと冷え」による頭部の血液分布のアンバランスその変化の大きさが引き金になる。
漢方的には、水分の停滞という見方もできるようである。
局所的には、耳の後ろから後頭部にかけての首筋の「こり」に着目すべきである。
生活上は、なんと言っても睡眠につきる。これは、睡眠時間ではなく、熟睡の時間というべきで、藤野先生曰くの「脳疲労」を改善するような深い眠りができているか否かということになる。不眠=脳疲労→内耳の自律神経失調症→めまい、という単純な図式も間違っていないだろう。
メ ニエルの大家とされる福岡のS病院の耳鼻科の先生は、「精神安定剤漬け」といってよいほどの処方をされて揶揄されかねないようだが、どんな方法でも良いか ら「眠らせる」ことは基本的には良いことだと思う。もっとも、そこに至る過程で養生の観点が希薄で、ただ薬圧で圧倒するだけには疑問もあるが。
そして最後にもっとも重要な要因と考えられるのは、やはり心の問題であって、この場合も「不安」がめまい症状を倍加し固定し難治化させるのではないかと思う。
軽 いめまい感が、更年期の循環器神経症的な動悸や胸部圧迫感、のどの閉塞感などと前後して発現すると、一気に切迫的な恐怖症の様相を示し、やがてパニック的 な発作を起こし、そのパニック的な体験は心に深く記銘され、平衡感の感覚の軽微で微妙な変化ですら発作を「予知」させるようになるのではないか。

◆首の短い人は頸部神経痛
俳優の西田敏之が頸椎椎間板ヘルニアで手術したという話を、件の患者さんから聞かされて、「あの人も首が短いでしょう」と二人で納得しあう。
美容室で仰向いて洗髪する姿勢も、該当するような体型の人にとってはとても危険である。

◆首の寝違い
大方の痛みが取れても、あと少し肩から首の横筋にかけてツッパリが残っていた女性の場合。肘の下方で手のひら分ほど小指に向かった骨の際、支正というツボに鍼をすると直後に首から肩にかけての横筋のツレがなくなる。

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