医業類似行為解釈をめぐって③
(6)平成2年頃 『逐条解説』における「広義の医業類似行為」の発案
平成2年(1990)2月に厚生省健康政策局医事課の編著で出版された『逐条解説 あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律/柔道整復師法』は、昭和63年の改正あはき等法/柔整師法の解説書である。この本の総説では、四業種の施術者の行う業務が、「いずれも医業類似行為に属する行為」云々との記載があり、また、逐条解説の12条の項では、
医業類似行為には、広義の医業類似行為と狭義の医業類似行為とに分けられる。広義の医業類似行為は、狭義の医業類似行為とあん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅう、柔道整復など法律により公認されたものとをあわせた概念である。本条(12条)は、狭義の医業類似行為を行うことを禁止した規定である。
とあり、四業種が(広義の)医業類似行為の一部であるという解釈が示されている。
ここに来て、四業種は「医業の一部」という特別例外的に規定される存在ではなく、四業種以外の行為名称であった「医業類似行為」に、当時の厚労省医事課担当者が発案した「広義の」の字句を冠することで、逆に「医業類似行為」包摂されるという皮肉な結果となった。
この『逐条解説』以降、厚労省通知だけではなく内閣答弁などまでもが、「四業種は医業類似行為に含まれる」という解釈を「公式」見解として流布してしまうことになる。
ただし、これはあくまでも所管担当者による「解釈」であり、あはき等法の条文それ自体は、「あん摩マッサージ指圧・はり・きゆう」と、「等」、つまり医業類似行為を明確に区別している。
(7)平成12年 茨城県の(賢明な)回答
平成11年(1999)12月、茨城県保健福祉部厚生指導課は、「医業類似行為」に関する問い合わせに対して「広義の医業類似行為」流の解釈に基づいて回答したが、翌年11月には、「内容の一部に誤解を生じる点」があったとして法律条文に忠実な訂正回答を出した。
この訂正回答は、禁止・処罰の対象となる「医業類似行為」についてのみ言及し、あはき等法免許資格者の立場については直接言及することが無いというものであった。この訂正回答の立場は、「医業類似行為」の解釈の難所を回避した賢明なものと思われる。
○ 前回の回答
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第12条中の「医業類似行為」とは、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう、柔道整復と療術等を併せたものを指すものと理解しております。○ 訂正後の回答
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第12条及び第13条の8の規定で、禁止・処罰の対象となる「医業類似行為」とは、医師法及びあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律に基づく免許資格を有する者がその範囲でする行為以外のもので法に基づかないものを指すものと理解しております。
平成12年(2000)11月28日 茨城県保健福祉部厚生指導課長
(8)「医業類似行為」解釈問題のまとめ
あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゆう師及び柔道整復師の行う業務については、法律条文に従えば「医業の一部」であるにもかかわらず、平成2年の『逐条解説』における厚労省担当者「解釈」である「広義の医業類似行為」説が広く流布しているのが現状であり、この言説と現状を覆すのは至難だと思われます。
「医師を中心とした医療制度」の外側に設けられたとされる「あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゆう師・柔道整復師」制度は、「医師を中心としないもう一つの医療制度(歴史文化の伝承と近代西洋とは異なった出自をもつ体系)」と定義することができます。
この「制度外制度」である「あはき柔」業務が、保険医療制度に参入を認められている場合、つまり療養費として関与するに当たっては、医師の指導指示の下(同意の根拠)に入ること=「医師を中心とした医療制度」に従うことが規定・許容されており、このことからも制度外に位置している無免許・無資格の「医業類似行為」とは一線を画していることは明らかです。
「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」の「等」は、医業類似行為をなす業者を指しており、同12条以下の数条文は、医業類似行為を業となすことの禁止または猶予を規定しており、届出の如何に関わらずこれらの行為を規制する法律であることを示しています。
「あはき柔」業務が、「医業類似行為」であるか否かという解釈問題は、何らかの利益不利益をもたらす実質的な問題であるよりは、別次元の象徴的な意味をもっているようです。「医師を中心としないもう一つの医療制度(歴史文化の伝承と近代西洋とは異なった出自をもつ体系)」を「医師を中心とした医療制度」の立場では認めない、けれども完全に無視も出来ない、ということなのでしょう。 (了)
※ この文章は、平成26年9月4日に開催された、公益社団法人福岡県鍼灸マッサージ師会と関係行政担当者(福岡県、福岡市、北九州市)との間で開催された「関係機関懇談会」に筑紫が提出した資料に若干の加筆修正を加えたものです。文責は筑紫にあります。
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