プラセボ考 なぜあるのか?
(注目記事要点)
プラセボ(偽薬)反応/効果に関して、なぜあるのか? どんな意味があるのか? などに興味があって記事/文献を集めています。
プラセボに関する記事のEverNote
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2008年刊の『代替医療のトリック』は、代替医療を批判的に検証した本として斯界に衝撃を与えた、そうです(文庫版の『代替医療解剖』は斜め読しました)。
「鍼はプラセボ?」 と問う前に、プラセボ(反応/効果)って一体なんなのだ?、ということに私は関心があります。
下は、収集している「プラセボ/錯覚」に関する記事/文献から、特に興味深い記事をピックアップして要点を書き出したものです( 記事日付の後ろの★は 私の注目度 )。
まず、『代替医療のトリック』=『代替医療解剖』(文庫版)に関連していくつか取り上げてみます。
( 原題は Trick or treatment で、翻訳単行本のタイトルにも忠実に「トリック」を用いたのでしょう。文庫本では、「解剖」に改題されたとのこと。「トリック」が刺激的すぎた、ということでしょうが、このような反応自体が興味深いことです。 )
(だいたいいりょうのトリック、文庫化に際し『代替医療解剖』に改題。原題:Trick or Treatment? Alternative Medicine on Trial)は、サイモン・シンとエツァート・エルンストによる、代替医療に関する2008年(邦訳は2010年)の書籍である。 シンは素粒子物理学の博士号を持つ科学ジャーナリストで、『フェルマーの最終定理』などの一般向け科学書の著者として知られている。エルンストは補完代替医療を専門とするエクセター大学の教授である[1][2][3]。 原題のTrick or treatmentは、ハロウィーンで子供らが口にする決まり文句"trick or treat"(お菓子をくれなきゃ いたずらするぞ )にかけたものである。日本語訳は2010年1月に『代替医療のトリック』の題で新潮社から刊行され、2013年8月に『代替医療解剖』の題で文庫化された。
『代替医療のトリック』に関連して、「鍼はプラセボ?」という議論の前に、まずはプラセボそのものを考究しつくしたいのですが、「鍼はプラセボ?」に反応しているパターンを幾つかあげてみます。
201101 ★★正直にプラセボを使う - NATROMの日記
- 優れた「プラセボ鍼」を使った研究では、鍼に特異的効果を検出できなかった。つまり、「鍼はプラセボにすぎないことが示唆されるようになったのだ。
- 鍼がプラセボに過ぎないのであれば、医療の現場からは原則的には排除されるべきである。
- 鍼に特異的効果があるかどうかを知りたいのではなく、実地臨床の場で鍼治療が役に立つかどうかを知りたい
201101 ★★「鍼はプラセボに過ぎない」と本当に言ったのか?
- 鍼治療研究の専門家は、シンとエルンストが「鍼はプラセボに過ぎない」と評価していると捉え、その見解に反撃
- 当該書においては、著者は「鍼はプラセボである」と断定してはいないと考える
- 全体の書き方から見て、そう判断
- 「全体を見て」本書における留保は、まさに「臨床的証拠に基づいた」留保
201408 鍼はプラセボにすぎない① ~プラセボ効果とは~
- 鍼には様々な病気を治す効果は無く、他の代替医療や西洋医療には治せなくて、鍼ならば治せるという様な神秘の力など無く、当然、「気」「経絡」「経穴」は存在を証明できず、鍼にも効果があるとすれば、「痛み」に効く可能性があるぐらいだが、その可能性がわずかに残された効果も、大部分が「プラセボ効果」である可能性が高く、実の効果があったとしても、無いに等しいぐらいで、薬よりも効くという科学的根拠はない。
- 私個人の意見としておくが、やはり、プラセボだけじゃない効果があることを説明するべきだろう。中国の理論のような「とんでも理論」以外で。 もし、その説明ができないのなら、患者を騙すべきではないと思う。あやしげな魅力と儀式感でプラセボ暗示にかけるのではなく、あくまで、実の効果の「おまけ」や相乗効果として、プラセボを考えるべきだろう。
201412 ★「鍼灸はプラセボ効果」といつまで言えますか?:鍼灸師のツボ日記
- 鍼灸院で患者さんが治る力は、「自然回復」+「プラセボ効果」+「本当の効果」の3つの合計です。鍼灸師は全てに関わることができます。生活指導を徹底すれば自然回復力をアップできますし、権威をちらつかせたり話術を磨けば、プラセボ効果をアップさせることができます。鍼灸の学術を磨けば、本当の効果をボリュームアップできます。
- 暗示を避けるもう一つの理由は、その必要がないからです。鍼灸の効果(本当の効果)は驚くほど大きなものです。プラセボ効果が飲み込まれるほど、インパクトがあります。それを一度でも体験した人は「鍼灸はプラセボ効果」と二度と口にすることはないでしょう。
- プラセボとは言えなくなる鍼の効果
実際の臨床を撮影しました(患者さんの許可を得ています)。初診の患者さんで、この時、正真正銘の初対面です。打ち合わせなしの映像です。指の曲がり具合がどう変化していくのか注目してください。プラセボ効果でここまで変わると思いますか?
引用者評:
概ね妥当な見解だと思うが、「鍼灸の効果(本当の効果)は驚くほど大きなもの」という強い自負を表明できる心性自体が、強力なプラセボ反応を引き起こす術者の資質を示している、ということにこの人は気がついているのだろうか。
また、手のこわばりの鍼灸治療の映像「プラセボ効果でここまで変わると思いますか?」のやり取りを視聴してみると、まず、9ヶ月続いているという若い男性の手指の強張りの本態は何なのかが問われていないことが致命的であるように思われる。
繰り返される症状再現の促し自体が、治療的な意味を持ち得ること、被験者にホーソン効果を生じせしめ得る術者の言語誘導の巧みさが見て取れること、などからこのような現象が「プラセボとは言えなくなる鍼の効果」とはとても呼べないであろうと思う。
以下は、プラセボ/錯覚の資料記事から注目記事の要点(年代順に)。
ピックアップの視点は、プラセボ反応という現象の生物学的な意味、その本態と発現機序、といったところです。
- Placebo effectを左右する要素は幾つかあるが、その一つに 「期待」(多くの場合ポジティブ)が挙げられる
- 他に 信頼、暗示、希望といった類似要素 を伴い、心と体の関連性を証明する被験者の医療への信頼と「効くかもしれない」という期待
200303 ★★★プラセボはなぜ効くか? PET による脳研究
- プラセボを与えただけで鎮痛作用がみられた
- 人の脳内でも帯状回や脳幹部が同様に変化した
- 薬が効くという期待が内因性ドパミンの遊離を促進し発現に寄与
- 視床、島、前帯状皮質等の痛み感受性脳領域の活動の低下とプラセボによる鎮痛作用が相関
- プラセボは体に物理的な作用を及ぼさずとも、脳の活動を変化させることで、痛みの感じ方に影響を与えうる
- プラセボに反応してパーキンソン病患者の線条体のドパミン放出が上昇
- プラセボ効果と内因性のドパミンレベル上昇には“用量相関性”がある
- プラセボ作用の正体とは、 「希望への生体の反応」
200709 ★★★★痛みと鎮痛の基礎知識 - Pain Relief ープラセボ
- プラセボ反応は、期待の実現 である
- 個人は期待を学習する。充分な数の個人が同じ期待を共有すれば、文化となる
- プラセボ効果は、単に示唆や暗示効果による不安の減少だけではなく、生化学的変化を伴う
- プラセボ鎮痛と報酬系には共通点がある
- プラセボ鎮痛と同じ脳回路の活性によって、不安感を軽減させる
- プラセボ鎮痛は、報酬系の特別なケースであり、プラセボ治療は疼痛認知を修飾するのと同じ方法で、情動認知を修飾
- プラセボ効果は、治療における患者の期待によって引き起こされる一般的な修飾のプロセス
200810 ★★プラシーボ効果は「信じる」じゃなくて「条件付け」だろう
- プラシーボ効果は、思うとか信じるとかよりも、もっと脳と体の深い部分(この意味での「暗示」という表現なら不適切ではない)の問題
- どちからというと「 条件付けによる効果 」 というほうがよい
200812 ★誤用される「プラセボ効果」 - Skepticism is beautiful
- 効果のメカニズム候補
* 自己暗示 * 条件付け * ストレス低減効果 * 思い込み
* ホーソン効果 * 自然治癒 * 平均への回帰- 器質性の疾患にはプラセボ効果はあらわれないという話は多い
主観的な痛み低減効果が存在するということについては、ほぼ確実201003 ★★★『誤用される「プラセボ効果」』誤用とそもそも論
- 「プラセボ効果とは、治療しようとしている症状に対し、客観的に見て特異的な作用を及ぼさない物質によって引き起こされる効果である。」という意味不明の文になってしまう、というわけだ。
- これではプラセボに効果があるのかないのかないのか分からないし、プラセボ効果は効果を及ぼさないはずの物質によって引き起こされる効果ということになってしまう。確かに矛盾している。
- 意味応答(meaning response)という概念
プラセボ効果と呼ばれて来た現象は実は必ずしも与えられた薬がプラセボであることとは関係ない。むしろ このような現象は、"薬"のもつブランドや色、数などの「意味」(meaning)に対して起こっている応答
引用者評:
「効果を及ぼさないはずの物質によって引き起こされる効果」という表現を矛盾ととらえること自体に問題の本質がある。
プラセボ効果ではなく、プラセボ反応と呼ぶべきなのだ、というアンドルー・ワイルの見解が本質により近い。
その意味で、 effect ではなく reaction または response としての「意味応答」=プラセボ反応なのではないか。
- 重い軽い、硬いやわらかいといった 触感の違いが、社会的なシチュエーションにおける人間の判断に影響する
- 心と身体は独立した別個の存在だとする考え方を、科学的を突き崩す
- 身体化された認知
「子どもは手を使って考えたほうが数学の成績が上がる」
「役者は、動きながらのほうがセリフを思い出しやすい」
「温かいコーヒーのカップを持った後には寛容な態度に傾き、冷たい飲み物では冷淡になる」- 触覚の情報は、発達の初期段階においてきわめて重要
- 触覚をもとに、その他の関連付けが形成されていく
- 触感の影響は無意識的なものであり、意識化すると影響力が低減する
201101 ★★★「想像上の行為」も現実的影響:食べ物で実証
- 特定の食べ物を食べる想像を何度も繰り返すと、実際にその食べ物を食べる量が少なくなる
- 心的イメージ(想像)と知覚(実際に食べる行為)のプロセスは非常に似通っており、関与する神経経路や情動の多くを共有
- 実際に摂取するところを何度も繰り返し想像するうち、対象に感じる魅力は薄れていく
- 「期待」を介するプラセボ効果は、感情と情動を随意的に制御する脳内機構(回路)を介して発現
- プラセボ効果の発現機構
内因性オピオイド
ドパミン作動系報酬報酬機構
ドパミン活性を促すには<期待>をさせることがkey- 心理学ではプラセボ効果を、「臨床的改善を期待または予期する心理現象」(Kirsch 1999)とみなしてきた
- この心理現象の脳内機構として、内因性オピオイドとドパミン作動性報酬機構の役割が注目
- 痛み、抑うつ、およびパーキンソン病の3疾患では、数多くのRCTにおいて著明なプラセボ効果が繰り返し報告されている。この3疾患の病態機序に関係する神経ペプチドまたはニュートランスミッターを介して、プラセボ効果の脳内機構が研究
- ドパミン作動性報酬機構
Benedettiらは、このようなプラセボ効果をもたらす心理的社会的背景を意識領域と無意識領域に大別し、前者では 臨床的改善への期待または予期 が、後者では 古典的な条件付け(Pavlov)が重要- プラセボによる鎮痛効果をあげるためには、患者に 鎮痛への期待を持たせることが決定的に重要
- 外側および腹側前頭前野は、認識された課題の遂行(たとえば作業記憶 working memory)を制御する脳内機構(回路)を形成すると考えられており、この回路が「期待」に対する遂行としてプラセボ効果を発現
- もう一つの可能性は、同じ回路による、 現在の、および予期させる事象に意味を持たせる過程
- 有効なプラセボ鎮痛が 痛みの意味を能動的に再評価すること であれば、眼窩前頭野と外側前頭前野系の両者は、痛みの知覚と情動に偏倚を与えている可能性
- 介護者からの情報も含めて評価されるため,プラセボ効果がより現れやすい
- 少しでも効くかもしれないと介護者が思い込んでしまう可能性
引用者評:
この評者は、認知症患者には主体としての「人格」機能が低下or欠如している、というような前提があるのかもしれない。
認知症患者は、「プラセボ」を受け取るだけの認知能力が欠けている、という訳で、従って評価の実態が介護者の評価として偏っている、と言いたいわけである。
認知能力が低下したヒトにおいても、介護における「親愛」のシグナルが「プラセボ」として働くのではないか、という可能性は全く考慮されていない。201209 ★★★★★プラシーボ効果の謎を進化論が説明する
- プラシーボ効果は、ほかでもない進化のメカニズムで、コスト/利益の単純な分析によって起こる
- 外的な条件(まさに丸薬と思い込まされてドロップを飲んだときのように)は、患者を安心させることによって、免疫システムの仮想的なスイッチを入れている
- このシステムが活性化するのは、 大きな出費を要する体の防衛を、大きなエネルギーコストなしに実行に移すことにOKを与えるサインが、外部から届くとき
- キャンベルハムスターにおいてプラシーボ効果に似た現象を観察
小さな感染症に対する免疫反応が、単に飼育状況を変えるだけでスイッチが入る、というより増強される
特に、日光に当たる時間を延ばしたとき、すなわち冬の状況から夏の状況に移ったとき- 免疫システムを働かせることは、エネルギーの出費を必要とする
だから感染症が本当に危険になるまでは、休眠させておく方がよい
サインを待っているのだ(ニコラス・ハンフリーが発表した考え)- 薬(実際は水やドロップ=プラシーボ)が病気と闘い、免疫システムが多くの労力なしに勝者となることを可能にしてくれる。要するに、身を守っている
- 患者(もしくはハムスター)の、環境条件に対する期待に基づいたメカニズム
理想的条件でのみ免疫システムを稼働させる- ハムスターにおいては、保証のサインは光だ。日がより長く続くことは夏を意味する。従って、より多くのリソースがある。このため、免疫システムのような出費のかかる機構を危機に陥れる危険がより少ない
- 人の場合のメカニズムはこうだ。薬(実際は水やドロップ=プラシーボ)が病気と闘い、免疫システムが多くの労力なしに勝者となることを可能にしてくれる
- 数学的モデルによると、困難な条件で生きる動物は、もし免疫反応をセットしなければ、より長く生きるだろう(そしてより多くの子をもつだろう)。反対に、有利な条件では(より早く回復できるときには)、動物にとっては防衛のスイッチを入れることがより好都合
- 患者がある療法の有効性をポジティブに期待すると、疼痛を抑制する大脳領域が活性化し、ドーパミンなどの神経伝達物質が、“プラセボ効果”に関与することが報告
- プラセボ反応の遺伝的素因を調べることで、患者の潜在的なプラセボ効果の予測とコントロールが可能となる
201303 ★★★プラセボ効果は心身因果関係の理解を変えるか
- 偽薬や真正ではない医学的処置が患者に与えられるとき、薬理作用や真正な医学的生理学的効果がないはずであるにもかかわらず、患者や被験者に治療的効果が現れることを「プラセボ効果」とよぶ
- この効果は「心的なもの」から「身体的なもの」への作用─現代物理学や医学の視点(物理主義)に背く作用であり、 心身二元論の根拠とみなされる
- H・ブローディは、「プラセボ効果」の興味深い解釈を提示し、プラセボによって患者等の側の「条件づけ」や「期待感」によってある「意味づけ」がなされ、それが身体的な変化を引き起こすとし、プラセボ効果は 認識的かつ身体的な「反応」
- 現代の物理主義の枠内でプラセボ効果が理解できることを示すことができる。代替医療もふくめて、プラセボ効果が必ずしも心身二元論や「心から体への因果関係」を導くものではないことが示される。
- 食べものや飲みものの色や匂いに、わたしたちの舌は簡単にだまされてしまう。実はこれは、そうなるように進化したから
- 色や匂いから味がわかるようでないと、食べる機会を逃しかねないのだ。これでは生存競争で不利
- もともと 味と匂いが組み合わさっているのではなく、経験から脳が学んでいる
- だまされているのは、舌(正確にいえば舌の上にある味覚の感覚器)ではなく、脳
- 遠くの木の枝に赤くて甘い香りのするものがある。口にするまで、食べ物かどう かがわからないのだとしたら、せっかくの果実に近づこうとしないかもしれない。「すぐに取りに行かないと、ほかの誰かに食べられてしまう」
- 色や匂いから味がわかるようでないと、食べる機会を逃しかねないのだ。これでは生存競争で不利
- 「同じ味」や「ただの水」と見破るのは幼い子どもが多いという 傾向がある
- オーストラリアのヒシやライチの実の香りと甘みや酸味を組み合わせた実験では、組み合わせを逆にして体験した人は、その組み合わせでの味を感じる。このことからも、もともと味と匂いが組み合わさっているのではなく、経験から脳が学んでいる
- プラセボ効果に関与する因子としては、信頼の度合い、期待感、過去の記憶、暗示・明示を含む手法の意味、等が関与することが報告されているが、このうち 最も大きい要素が期待感(expectation)であると報告
- プラセボ効果には、情動系や報酬系に深く関与している
- 期待感と感情との関連, 期待感の意思決定への影響、が脳機能マッピング上も報告
201401 ★★★クスリのプラセボ効果はなぜ起こる?:月刊薬事201401
「条件付け(薬剤の効能を繰り返し経験することで,外見が似たプラセボを服薬しても効果が発現する)」「期待(服薬による薬効への期待」 プラセボ効果は、ドパミン受容体や、セロトニン受容体、ホルモン応答性の受容体経路の活性化、インターフェロンを介する免疫反応にも関与 抗がん薬,抗体医薬,免疫抑制薬など,検査値などの客観的評価が可能な薬剤ではプラセボ効果はあまり現れない しかし,抗炎薬,α,β遮断薬,オピオイドなどエンドポイントを患者の五感による主観的評価に頼った場合にはプラセボ効果が高い 大脳前頭前野がプラセボ効果の認知にかかわる脳の活動部位その活動にカウンセリングによる情報介入で影響を与えることが可能
- 痛みの緩和だけではなく心地良さを増幅させるプラシーボ効果
- 偽薬で緩和された痛みは、 ただの暗示効果ではなく、生化学的変化を伴う
- プラシーボとは、本人の自覚なしに体の機能や知覚を変えるもの
- プラシーボが主観に基づいたネガティヴな症状を緩和させているだけではなく、痛み、不安、不快な味など、脳内で嫌悪の刺激となる回路も抑制している
- 皮膚からの感覚情報は同じ神経回路(とりわけ、視床、一次・二次体性感覚地域と島皮質後方部)で処理されるが、プラシーボはこの回路に働きかけることが明らか
- 「強い痛みから解放されれば、“快適”と感じられることがあるように、 『痛み』と『心地良さ』は脳の賞与の回路において密接な関連がある
- 「プラシーボによる緩和の度合いが人によりまちまちであるように、『心理的・環境的要因』は人間の主観的な 知覚を大きく左右する」
- 痛みと同様、心地良さ、食べ物の味といった感覚が、「周りの環境」や「期待値」に大きく作用される
- 環境が違うだけで、われわれの 主観というのは大いに変わりうる
- プラシーボ効果の根本にあるのは、向上したいという期待が脳の賞与の部分に働きかけるため
- fMRIの分析では、痛みと心地良さの脳神経システムは、相互に作用すると共に、相互に抑制もしていた
- 心地良い音楽、食べ物、匂い、感触といったポジティヴな刺激は「無痛」を引き起こし、逆に「痛み」は喜びやポジティヴな感情を抑制する
- 偽薬でなくとも「脳の賞与の神経回路」に働きかければプラシーボと似たような効果を引き出せる
- 落ち込んだ時に聞く“癒やし効果のある”音楽のように、いい匂い、美しい絵、心地よい感触なども、医療現場で患者の症状を緩和させられる可能性がある
- 乳幼児の夜間咳嗽にはプラセボでも効果
- アガベネクター(リュウゼツラン由来の天然甘味料)とプラセボでは無治療よりも有意に改善、RCTの結果
- アガベネクターにプラセボに優る効果がない
- 急性の非特異的咳嗽を呈する乳幼児には、注意深い観察よりも、プラセボ効果のみが期待される治療の実施を検討してもよいのではないか
引用者評:
乳幼児のケースは、認知症患者のプラセボの記事と同じく言語的な認知能力の有無に関係なく、プラセボ反応が引き起こされる現象の一例ではないか。
ポイントは、乳幼児の保護者=親の「愛情」や投薬をしているという親の安堵が、生物としての乳幼児にとってプラセボ=安寧・安全を保証するサインなのではないかということ。
- プラセボ効果はマウスにも存在していた
- 犬は人のように薬そのものに対する知識はないが、条件を付けることでプラセボ効果があらわれるという結果
- 犬も心の持ちようによって行動が変化すること、気持ちと身体の状態とに関連性がある
- 期待されていると感じることで、行動の変化を起すなどして、結果的に病気が良くなる(良くなったように感じる、良くなったと治療者に告げる)現象
- 教育心理学における心理的行動の1つで、教師の期待によって学習者の成績が向上すること
201510 ★★「プラシーボ反応」の強弱は遺伝子によって左右される
- 脳にはプラシーボ効果を仲介する神経伝達物質経路があり、この経路には遺伝子が関わっている可能性
- プラシーボ反応が個人の特定の遺伝子によって左右される
- 神経伝達物質経路はその機能を重複している可能性があり、 「思い込みと薬効の両方によって、相乗効果を生み出している」
- 吐き気、疲れ、更年期のほてり、過敏性腸症候群(IBS)、鬱などの症状は、プラシーボや治療薬の作用に大きな個人差が現れることから、薬がプラシーボ反応を変化させたり、プラシーボ反応が薬の作用の程度を変えてしまうといった可能性
- (1)薬剤なし,(2)盲検化されたプラセボ,(3)盲検化されたechinacea(4)オープンラベルのechinacea)でグループ間の比較では統計学的に有意差なし
- Echinacea エキナシア:米国で伝統的に使用されてい風邪、インフルエンザ、各種ウイルス、すべての種類の感染に対する最もポピュラーなハーブ系の対症療法薬
- 患者の治療に対する信念や感じ方が重要であり、医療における意志決定においては考慮されるべきであるという考え方を支持する
- 同種個体を視覚で識別する魚種は多い
引用者評:
「認知」が高等生物の専売特許である、というのは人間中心主義の偏見であって、魚レベルでも、認知=物語をもった知覚やそれを統括する(自己)意識がある、のだろうか?
個体識別ができるということは、個体すなわち自己の存立の有利不利を感知している、ということ。
プラセボ反応は、自己の存立の有利さを予見させるシグナルへの応答。
- 魚はストレスに対して「感情的発熱」によって反応する
- ストレスに誘発された発熱(感情的発熱)の現象は、生物が脅威となる可能性がある状況に対して「感情的な反応」を示すということを示しており、 感覚や意識を持つことによる特質
- 感情的発熱では、行動的な発熱を活性化するのと同じ内部経路が活性化 されるが、その誘因となるのは外因性および内因性の発熱物質ではない(外因性および内因性の発熱物質とは、細菌やウイルスの感染などを指す)
201512 ★★パンダ繁殖、自分で選んだ相手なら出産率が向上
- 愛し合っているジャイアントパンダのカップルは、そうでないカップルよりも多くの子どもを産む
- 飼育下にあるパンダに 恋の相手を自分で選ばせると、出産率が上がる
- たとえ片方だけが思いを寄せていた場合でも、良い結果となることが多かった
- メスは好きな相手とお見合いをした方が、好きでない相手とするよりも子どもを産む確率が2倍高い
- ハッピーな牛ほどミルクを多く出すことが判明
- 名前を付けて呼ぶだけで牛乳の量が3.5%アップ
- 名前を付けられている牛は、そうでない牛より多くの牛乳を出している
- 友好関係にある仲間に毛づくろいをしたあとにも、また毛づくろいを受けたあとには友好関係とも関わりなく、 個体の不安レベルは減少
人間以外の動物での「プラセボ反応」の生起を考えることは、この反応の本態本質を考える上で極めて重要だと思う。
- キャンベルハムスターの身の上に生じるプラセボ反応に似た現象
- シグナル: 飼育状況を変える=日光に照射時間の延長=冬の状況から夏の状況
- 反応or応答: 小さな感染症に対する免疫反応のスイッチが入or増強
- 環境条件に対する期待(夏=生存有利性の到来)に基づいたメカニズム
- 理想的条件でのみ免疫システムが稼働する、という生命体の根本戦略
ハムスターのこのような反応・応答の仕組みをプラセボ反応の原型として考えることができれば、魚類はおろかあらゆる生命体における感覚応答の基本原理あるいは根本戦略と考えることができるのではないだろうか。
プラセボ反応とは、生存の有利さを予見させる兆候あるいはサインあるいはシグナルに対応した生体の反応・応答であろう。
快・喜悦・安寧・安心・期待・希望などの善き認知と感情は、生存の有利さを予見させる兆候あるいはサインあるいはシグナルを感知した生体の意識=心的過程の別名なのだろう。
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