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2016年1月 8日 (金)

プラセボ考 なんなのか?

(まとめ)

「効果」か「反応or応答」か 

  • 薬物効果の無いプラセボ(偽薬)の効果、とは矛盾した表現である。
  • (プラセボによる)好結果はニセ薬(プラセボ)の効果ではなく、それを服用した患者の反応である。正しくは 〈 プラセボ反応 〉 と呼ばれるべきである。(Will1988)
  • プラセボ効果では単に患者が騙されたのではなく、患者が意味ある出来事に応答し「意味づけする反応(meaning response)を作り出している。(Moerman2002)
  • 「期待」「反応」「意味づけ」 ─ こうしたことがそろって、プラセボ効果が現れるとする見解が支配的になりつつあり、プラセボ「効果」ではなくプラセボ「反応」と呼ぶのが妥当である。  

(以降、すべて「プラセボ反応」として記述する。)   

プラセボ反応は心理現象か 

  • プラセボに関連して多くの場合、「心理効果」「暗示効果」「思い込み効果」などの言葉が説明的に使われることが多く、その前に「単なる」という修飾の連体詞が附くことが多い
  • 「単なる=ただの心理効果・暗示効果」という意味は、実際とは異なる知覚という意味での「錯覚」、認知の誤りという意味での「思い込み」、心理的な次元に留まる現象
  • 心理学ではプラセボ反応を、「臨床的改善を期待または予期する心理現象」としている(心理現象を身体過程に還元することも含めて)
  • プラセボ反応は、心理学的現象でもあるが、同時に生化学的な反応であり身体生理的な基盤がある
  • プラセボ反応は、単に示唆や暗示効果による不安の減少や痛みの緩和だけではなく、生化学的変化を伴う
  • プラセボは痛みの緩和だけではなく心地良さを増幅させる
  • 痛みと同様、心地良さ、食べ物の味といった感覚が、「周りの環境」や「期待値」に大きく作用される。環境が違うだけで、われわれの主観は大いに変わりうる
  • プラセボは体に物理的な作用を及ぼさずとも、脳の活動を変化させることで、痛みの感じ方に影響を与えうる 

プラセボ反応の心身機序(大まかに) 

  • プラセボ鎮痛と同じ脳回路の活性によって、不安感を軽減させる
  • プラセボ反応は、情動系や報酬系に深く関与している
  • 期待感と感情との関連、期待感の意思決定への影響、が脳機能マッピングで報告
  • fMRIの分析では、痛みと心地良さの脳神経システムは、相互に作用すると共に、相互に抑制
  • 視床、島、前帯状皮質等の痛み感受性脳領域の活動の低下とプラセボによる鎮痛作用は相関
  • プラセボが主観に基づいたネガティヴな症状を緩和させているだけではなく、痛み、不安、不快な味など、脳内で嫌悪の刺激となる回路も抑制
  • プラセボ鎮痛は、報酬系の特別なケースであり、プラセボ治療は疼痛認知を修飾するのと同じ方法で、情動認知を修飾する
  • 「期待」を介するプラセボ反応は、感情と情動を随意的に制御する脳内機構(回路)を介して発現する
  • プラセボ反応の根本には、脳の賞与の部分へ働きかける「向上への期待」
  • 心地良い音楽、食べ物、匂い、感触といったポジティヴな刺激は「無痛」を引き起こし、逆に「痛み」は喜びやポジティヴな感情を抑制する
  • 偽薬でなくとも「脳の賞与の神経回路」に働きかければプラセボと似たような効果を引き出せる
  • 「強い痛みから解放されれば、“快適”と感じられることがあるように、『痛み』と『心地良さ』は脳の賞与の回路において密接な関連 

プラセボ反応の心身機序(少し詳しく) 

  • 皮膚からの感覚情報は同じ神経回路(とりわけ、視床、一次・二次体性感覚地域と島皮質後方部)で処理されるが、プラセボはこの回路に働きかける
  • 薬が効くという期待が内因性ドパミンの遊離を促進し発現に寄与
  • プラセボに反応してパーキンソン病患者の線条体のドパミン放出が上昇
  • プラセボ反応と内因性のドパミンレベル上昇には“用量相関性”がある
  • プラセボ反応の発現機構
      ① 内因性オピオイド
      ② ドパミン作動系報酬報酬機構
        ( ドパミン活性を促すには<期待>をさせることがkey )

  • ドパミン作動性報酬機構を介してプラセボ反応が発現する心理的社会的背景
      ① 意識領域 = 臨床的改善への期待または予期
      ② 無意識領域 = 古典的な条件付け

  • 外側および腹側前頭前野は、認識された課題の遂行を制御する脳内機構を形成すると考えられており、この回路が「期待」に対する遂行としてプラセボ反応を発現
  • 大脳前頭前野がプラセボ反応の認知にかかわる脳の活動部位 

プラセボ反応の心身機序(大まかにまとめると) 

  • プラセボ反応は、ドパミン受容体や、セロトニン受容体、ホルモン応答性の受容体経路の活性化、インターフェロンを介する免疫反応にも関与 

    (具体的メカニスム=生化学的経路はまだ未解明な点が少なくない。) 

プラセボ反応の正体と意味

  • プラセボ反応を左右する要素は幾つかあるが、その一つに「期待」(多くの場合ポジティブ)、他に信頼、暗示、希望といった類似要素を伴い、心と体の関連性を証明する被験者の医療への信頼と「効くかもしれない」という期待
  • プラセボ反応に関与する因子としては、信頼の度合い、期待感、過去の記憶、暗示・明示を含む手法の意味、等が関与。最も大きい要素が期待感である
  • プラセボ反応は、治療における患者の期待によって引き起こされる一般的な修飾のプロセス
  • 患者の、環境条件に対する期待に基づいたメカニズム
  • 現在の、および予期させる事象に意味を持たせる過程
  • プラセボ反応は、期待の実現
    (個人は期待を学習する。充分な数の個人が同じ期待を共有すれば、文化となる。)

  • プラセボ反応の正体とは、 「希望への生体の反応」 

プラセボ反応の定義 

  • 周囲からの治療的な信号=シンボルに対する体の反応であり、その信号は心を通して身体に作用
  • 治療の場で、人がなんらかの出来事や物に付与したシンボルとしての意味が原因となって、からだ(あるいは一体としての心とからだ)に起こる変化 

キャンベルハムスターに見るプラセボ反応の原型
(キャンベルハムスターの身の上に生じるプラセボ反応に似た現象)
 

  • シグナルorシンボル:飼育状況を変える=日光に照射時間の延長=冬の状況から夏の状況
  • 反応or応答:小さな感染症に対する免疫反応のスイッチが入or増強
  • 環境条件に対する期待(夏=生存有利性の到来)に基づいたメカニズム
  • 理想的条件でのみ免疫システムが稼働する、という生命体の根本戦略
  • 「名前を付けられた乳牛」や「恋の相手を自分で選べたパンダ」では
    飼い主の「愛情」が注がれること、相性の良いパートナーの選択が
     → 生存の有利さを予見させるサインorシグナルとなる
     → 生殖機能が亢進する(汎世界的汎歴史的「戦後のベビーブーム」の本質か?)
    理想的条件の現況が感知あるいは予期できる条件で、生命(生殖)システムの稼働率が高まる、という生命体の根本戦略
     

プラセボ反応のまとめ - 生物学的な意味

  • プラセボ反応とは、生存の有利さの現況を感知させる、あるいはその到来を予見させる兆候orサインorシグナルorシンボルに対応した生体の反応・応答
  • 快・心地よさ・安心・安堵・安寧・喜悦・期待・希望などの善き・ポジティブな認知と感情は、生存の有利さの現況を感知させる、あるいはその到来を予見させる兆候orサインorシグナルorシンボルを感知した生体の意識=心的過程の別名
  • 生存の有利さの現況や予兆の感知は、身体的には「快感」「心地よさ」などの感覚として表出し、心的には「安心」「安堵」「安寧」「喜悦」「期待」「希望」などの感情として表出する。 

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