医業類似行為解釈をめぐって①
あはき柔等営業法の制定時、四業種(あん摩・はり・きゅう・柔道整復業の四つの業種、以下同)は「医業の一部」との認識があったにも関わらず、なぜ「医業とは、医師が行う医業であり、あん摩、はり、きゅう、柔道整複等の施術は、これとは別な、その外側にある医業類似行為の範疇に入る」と大きくズレた解釈がなされるようになってしまったのか、この辺りの事情やこのようなズレが生じた理由について、厚生省医務局編纂『医制百年史』を参考に、歴史的経緯を辿りながら、少し長くなりますが考察してみます。
(1)あはき柔等営業法制定前史 - 戦前の事情
明治7年(1874)、明治維新後の近代国家としてのわが国の総合的衛生制度の始まりとなる医制76条が発布される。
医制第53条の(4)「医師、産婆、鍼灸業者」の項では、「鍼治灸治ヲ業トスル者ハ内外科醫ノ差圖ヲ受ルニ非サレハ施術スへカラス、若シ私カニ施術ヲ行ヒ或ハ方藥ヲ與フル者ハ其業ヲ禁シ科ノ輕重ニ應シテ處分アルへシ」と規定された。
この規定は、「はり及びきゆうの施術を医師の監督下に行わせることとし、 これらの業務を近代的医学の管理下におこうというものであり、西洋医学採用という政府の方針の一つのあらわれとして注目される。なお、あん摩術及び柔道整復術については、医制はなんら規定していない。医制の規定のすべてが直ちに実施されたわけではなく、このはり及びきゆうの施術に関する規定を現実には施行されずに終わっている。」とあり、制度的な整備は伴っていなかったようである。
明治18年(1885)、内務省通達「鍼術灸術營業差許方」により、はり及びきゆう術の営業許可及びその取締りは各府県に委ねられた。各府県では、この通達に基づいてそれぞれ取締規則を定め、免許鑑札を与えて営業を許可した。あん摩術営業については、中央からの通達はなかった模様である。
明治44年(1911)、内務省令「按摩術營業取締規則」「鍼術灸術營業取締規則」が制定され、あん摩・はり・きゆうの施術に関する全国的・統一的な法制が初めて成立した。
大正9年(1920)には、「按摩術營業取締規則」が改正され、附則においてフランスから入ってきたマッサージ術が規定されると共に、柔道整復術についての規定も付加されて柔道整復術が初めて法制化された。
医業類似行為を業とすることに関しては、これを直接に規制する法令がなく、明治39年以後は、旧医師法に基づき無資格医業として取り締まれる程度のものについて取締りが行われ、明治41年以後は、「警察犯處罰令」の規定が適用された。
昭和5年(1930)、内務省衛生局長による照会回答によって、医業類似行為を業とすることについては各府県においてそれぞれ取締りを行うこととなり、この回答に基づき、多くの府県では取締規則を定め規制が実施された。多くの府県では取締規則を定めたが、その内容は届出制、許可制等さまざまであり、取締りを行わない府県もあった。
たとえば、東京府では、「療術行爲ニ關スル取締規則」(昭5 警命43)を定め、療術行為を「他ノ法令ニ於テ認メラレタル資格ヲ有シ其ノ範囲内ニ於テ爲ス診療又ハ施術ヲ除クノ外、疾病ノ治療又ハ保健ノ目的ヲ以テ光・熱・器械器具其ノ他ノ物ヲ使用シ若ハ應用シ又ハ四肢ヲ運用シテ他人ニ施術ヲ爲スヲ謂フ」と定義し、この営業を行う者は所轄の警察署に届け出なければならないことや、営業広告の制限、消毒の義務などを定めた。
(2)終戦直後
昭和22年(1947)、「日本國憲法施行の際現に効力を有する法令の規定の効力等に関する法律」により、従来の内務省令などの法律に基づかない規則については昭和22年末で効力を失うため、法律の整備が急いで進められた。
内務省令であった「按摩術營業取締規則」「鍼術灸術營業取締規則」も昭和22年末で効力を失うため、同年末に向けての法律制定が急がれた。「按摩術營業取締規則」の附則として規定されていた柔道整復業も、昭和21年末に厚生省令「柔道整復術業取締規則」として制定された。
さらに昭和22年4月には、厚生省令「医業類似行為をなすことを業とする者の取締に関する件」が公布された。これは、医業類似行為に関して、各都道府県に取締を委ねてきたことに対し、中央法令による法的根拠を与えることを目的としたもので、内容はなんら規定せず、単に形式的な法的措置として発令されたものである。
「柔道整復業」と「医業類似行為業」に関する取締規則が、形式的であっても急いで制定されたのは、「あん摩、はり、きゆう」業「柔道整復業」と「医業類似行為業」(これが法律名の「等」)を法制化する下準備として必要不可欠であったためである。
(つづく)
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コメント
大変ご無沙汰をしております。懐かしい方よりのメールでびっくり。博覧強記とは貴兄の事ですね。ゆっくりと読ませて頂きます。
投稿: 菅波公平 | 2015年1月 6日 (火) 20時25分
お久しぶりで御座います。
お目汚しで申し仕訳ありません。
近頃のマンネリ感を、新しいことをして癒やそう、といった感じです。
今後とも宜しくお願いします。
投稿: chi | 2015年1月 7日 (水) 08時44分
新春のお慶びを申し上げます。
お知らせ及びリンク、有難うございます。早速拝読します。ともあれ本日の施術も宜しくお願いします。
太田 哲也
投稿: 太田 哲也 | 2015年1月 7日 (水) 12時55分