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2014年12月10日 (水)

上陸前夜

◆原始魚類の進退条件
古生代および中生代の気候は、主に化石から推定されている。それによると、シルル紀(4.4億~4.1億年前)からデボン紀(4.1億~3.6億年前)にかけての気候が少しわかっており、古生代の大半は両極で氷がなく、今日より温暖であったらしい。

シルル紀には、オゾン層が出来て紫外線が遮られるようになり、大気中の酸素はほぼ現在の10分の1程度の割合になったという。緑藻類から進化した植物の上陸が始まった。陸上では光と酸素は十分だが、水不足と大きな温度変化にさらされるため、陸生の植物は陸上で植物体を支え、水を運ぶための維管束を発達させた。土壌の形成も進んで、デボン紀初めまでには、多数の陸生植物が地上で繁殖した。デボン紀に入ると、維管束植物類は大発展し、特に湿地に木生シダの森林をつくったという。

シルル紀~デボン紀にカレドニア造山運動と呼ばれる、約1億年間続いた大規模な地殻変動が起こっている。カレドニア造山運動は、陸地を拡大させた。海退が進み(浅海域の拡大)、気候は不安定になった。巨大な河川が出現し、広大な河口域によって淡水域と汽水域が拡大した。
 デボン紀は造山運動の最盛期で、乾期と雨期が交代し、より乾燥に適したシダ種子類も現れた。水棲の節足動物が上陸し、昆虫類が陸上に出現した。脊椎動物では、原始魚類から軟骨魚類や硬骨魚類が分岐し、さらに硬骨魚類から分岐した肺魚類が陸生化を始めたと考えられている。
 デボン紀末期には、肺魚類から分岐し、鰭を進化させた四脚で陸上をはい回る最初の両生類イクチオステガが現れた。

◆原始魚類の進路選択
水圧に抗した身体の仕組みを作るのは容易でないため、古生代の生物は浅海に集中して覇権争いをしていたと想像されている。
原始魚類は鰭も未発達で、海底をはい回る程度の運動能力しかなく、生態的地位=ニッチが重なるイカやタコの祖先にあたる肉食の頭足類との生存競争では、弱者として追い立てられる存在であった。
カレドニア造山運動による陸地の拡大と浅海域の拡大、巨大な河川の出現による淡水河口域の広がりは、同時に広大な干潟や湿地帯を生みだしその一帯に汽水域を広げた。
頭足類に追われる立場の原始魚類は、この汽水域に進出したと考えられている。ここに来て、原始魚類が汽水-淡水域で生きのびるためには、次のような難関をクリアしなければならなかった。

  ① 海水と汽水(塩分濃度が大きく変動する)と淡水の浸透圧差
  ② 雨期の大量の雨水流入や濁り、あるいは淀みによる水中の酸素濃度の低下
  ③ 同じ理由などで生じる水温の比較的大きな変動
    (淡水-汽水域は、海域に比べ大気条件の変動をより大きく受ける)
  ④ 海水中より大きな重力負荷(海水に比べ淡水では浮力が少ない)

そして、汽水-淡水域に進出した彼ら原始魚類は、これらの問題を次のような「はたらき」を獲得し洗練することで生きのびた。この「はたらき」こそが次のステップである上陸を導びくものとなった。

 A.腎臓による浸透圧調節
 B.原始肺による空気呼吸
 C.原始的な体温調節系
   1.代謝水準の向上
   2.内臓循環系と体壁循環系の相反的な統合機能 原始的な自律性調節
 D.硬骨による内部骨格系

海中では不可避である過剰な摂取カルシウムを、原始腎臓によってリン酸カルシウムとして排泄していた原始魚類は、やがて排泄物を皮膚の下に蓄積 し、それが骨板となって頭や体を守る「盾」を形作った。原始魚類は、淡水域に上がって発展進化し、その後多くのものがまた海に下っていったと考えられてい る。
何故初期の進化が淡水域で行われたのか。原始魚類が鰭を持った段階で頭足類(イカ・タコの祖先)などとの争いを避け、新天地を求めて川を溯るようになったのかも知れないという。

三木成夫は、この間の原始魚類の心情を想像して次のように語る。
「一億年の歳月はかれらに長い長い試行錯誤の期間を与え、その過酷の自然はかれらに絶妙の適応をとげさせることとなった。」
進か、退くか、そこには一億年になんなんとする逡巡の日々があった

( 2003/03/24 )

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