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2014年11月30日 (日)

神経の伝導速度とめまい (2003/03/23) 

 光(または電気) 300,000,000m/s

       音(大気中)         330m/s
       速い神経伝導        120m/s
       短距離走           10m/s
       遅い神経伝導        0.5m/s
       血流            数10cm/s
       リンパ流         もっと遅い

        生物の神経というケーブルを伝わる信号の実体は、活動電位(インパルス)の伝播であり、活動電位の実体は、イオン擾乱だという。神経中を伝わる信号の速 度は、電流の速度はおろか、音速にさえ及ばない。最高のスポーツ選手でさえ、その動作を制御するために四肢末端あるいは筋関節から送られてくる信号は常に 遅れて中枢(脊髄や脳)に達しているらしい。また、中枢での身体位置の解析や次のアクションを命令するための演算の速度も、現実の動きよりも遅れるとい う。我々の四肢体躯は、脳内にあると信じられている意志という命令に先行した何事かを目指して「勝手」に、そして全体として協調しながら動き、そして日々 その学習を重ねているようである。

 つまり、よく実感されているように、私の身体は必ずしも私の意志(自我の発露)の支配下にあるわけではない。私は、私の身体を支配し制御していると思い こんでいるのだが、それは錯覚にすぎない。体操選手のような、巧みな連続動作を意志的に作り出すことはできない。この当たり前の事実は、動作は意志によっ て成立しているという思いこみを粉砕する。意志による高位中枢を介した随意性ではなく、低位中枢を介した反射の連鎖による不随意的な適応なのだという説明 も、神経伝導速度と中枢の演算速度の限界の前では少し色褪せてくるように思われる。
      
 この辺りの事情を、随意性と不随意性、意志と自律性の問題一般に拡張して考えてみると、通説とは少し違った見方ができて、ある種の病気や病態の理解も拡張される。

 例えば、「めまい」あるいは眩暈発作後のめまい感を考えてみる。首座り、ハイハイ、お座り、つかまりだち、そして起立と歩行などの姿勢動作の獲得に費や される約1年、それから成人に達するまでの20年間に蓄積された姿勢制御の経歴が、ある時に突然に白紙に近い状態に戻されるとしよう。彼は、姿勢制御を実 現していた不随意系に信頼が置けない。彼は、不随意系に頼らずに、意志の力で随意的に姿勢を制御しようとする。けれど、如何せん、視覚や四肢からの信号を 中枢で情報処理し、その結果として四肢の位置を制御しようとしても、現実の進行に常に遅れてしまう。つまり、よろめいてしまう。彼は「めまい」の恐怖と不 安にかられ、一層に意志的に姿勢を制御しようとして失敗するというジレンマに陥ってしまう。

 めまい発作そのものと、その後に長く続くことが多くめまい発作をも誘発する「めまい感」を区別してこのように考えることもできる。キーワードとしては、余計な「はからい」の害とでも言うことができる。

 人を病者として呪縛してしまう病識の魔力は、「病は気から」の一つのバージョンである。

 運動系について東洋伝統的なとらえ方として経筋という括り方ができる。そこには、実に様々な手技手法が、そのすそ野を形づくっている。様々な武術がもっ ているワザも、当然のこととして攻撃的であると同時に治療的でもある。虫や鳥や獣の動作にヒントを得て、ワザや流儀が組み立てられるのもその自然観察眼の 故であろう。

 ところで、最も下等な脊椎動物である脊索動物にナメクジウオという魚類の祖先のような生き物がいる。まだ骨になりきれていない脊索を支柱として、ナメク ジウオはクネクネと胴体をくねらせて動きまわるらしい。このナメクジウオの動きの中に、経筋の始まりを観察してみることができないだろうか。
      
 ナメクジウオは容易には手に入らないから、より下等な部類から言えば、ヤツメウナギ、うなぎ、どじよう、ヘビなど、要するに鰭や四肢を持たぬかその働き が脆弱な動物の、脊椎を支点とした左右あるいは上下の鞭振運動を観察するのである。操体法の橋本敬三先生も、野口体操の野口三千三先生も、動物の動きや鞭 のしなりを観察し道を拓かれたのだという。テレビで見た野口氏の鞭のしなりヘビの動きの再現は面白かった。運動器の障害を動作全体の中で考えることの大切 さがある。

      

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