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2014年11月26日 (水)

スラウデ (2002/09/17)

小雨高温に推移した夏も終わり、このところ朝夕は涼しくなって年に二度の大きな季節変わり目の体調移行期、秋口徴候が少しずつ出てきている。
春と秋の季節変わり目は、冬型から夏型、夏型から冬型への体調移行期であり、各種の身体不調が出やすい時期である。

太陽をめぐる地球の公転にともなう年周期の波動つまり四季は、この地上のあらゆる動植物を運命づけるリズムとして、その生命活動を刻印している。

大地に根づき生える生き物、植物は、四季に応じて太陽と大気と無機物によって自らを養い(独立栄養)、生長繁茂し開花結実し世代を継ぎ、そして死の 眠りにつく。彼らの生のリズムは、緯度条件と海山川の地勢条件によって大きな修飾を受けながらも、その生きて死すべく条件付けられた大地の四季に応じて (再)生と(仮)死の間に自らの姿を変態させる。
何年も雨の降らなかった砂漠に雨が降ると一夜にして一面は花畑になる。千年の時を越えて蓮の実が 発芽しそして花をつける。特殊な条件下における植物の耐候性には、驚くべきものがある。がしかし、彼らの生は、太陽と大地の波動にきわめて従順であり、そ うでありながらにしてそれぞれの自己を屹立する(つまりはそれなりに抗うわけである)。

その大地に根づく植物に依存し(従属栄養)エサを求めて動きまわる生き物である動物は、自然に抗う(重力に抗して動き、気候に抗って体温を維持管理 しそして移動する)道を選択したが、餌たる植物の四季に応ずる生にまで抗うことはできず、エサの消長にともなって太陽の波動を受け入れることになる。
動 物の耐候性(つまり、四季の波動の振幅をより小さく受け入れるような能力)は、その移動能力も相まって多彩であり、一般に多様化と進化の系統のより新しく より複雑でより高度な構造と機能をもった動物ほどそれは強力である。彼らは、自然のリズムに順ずることをより少なくして、それなりに逆らった生を生きう る。

変温・外熱動物では、その体内温度は外部の熱環境に依存して変化しているが、硬骨魚類(普通の魚の類)でさえ一定の範囲であれば体内温度を外界温よ りも高く保つことができるし、「動く物」であるから移動によって、あるいは行動によって体温を調節することができる。つまり、その活動可能性は外界温に依 存しているけれども、それは多少の幅をもった依存性である。より低温期ともなれば、多年生の植物がするように冬眠してしのぐことになるし、より高温期には 夏眠することになる。

恒温・内熱動物では、その体内温度は外部の熱環境から独立してほぼ一定に保たれ得る。羽毛や分厚い脂肪層、高い代謝 レベル(そのために多くのエサが必要なのだが)によって、厳冬期でも冬眠することなく活動することが可能である。体温が40度前後もある鳥類は、酷暑を避 ける移動能力によって夏期をやり過ごす(渡りは避暑行動であろうか)。哺乳類では、その発達した行動能力と学習能力のおかげで様々な避暑手段を駆使し高温 期をやり過ごす。

特にわれわれヒトは、その優れた冷却機である皮膚の放熱機能(冷媒である血液の環流を増し、ラジエター・フィンである皮 膚からの輻射熱を増し、そして冷却水である汗の蒸発による冷却効果)によって、最も優れた恒温性・耐高温性をもっている。さらに、より発達した学習能力 は、火の使用・衣類・住居に始まり空調という人工気候を創出することによって、大気と大地のリズムに順ずることなく生きる術としての文明を築いた。天地の 波動からの乖離は、発情・交尾・出産という生殖のリズムが、全くと言ってよいほどに四季のリズムと同期しないことからもみても、文明の所産以上にヒトの身 体奥深くに刻まれた性ともとれる。しかし、死すべく運命づけられている生である以上、その抵抗も所詮は大日の掌のうちにしかなく、天地の波動への従順もま たその生をより深くあやなしている。

植物の従順といい動物の抗いといい、そもそも生命とは天地自然との抗いのうちに自らをあらしめる、ということではないのか。植物の従順な抗いと、動物の抗う従順は、それぞれの生の基本形ともいえよう。
抗いこそが生であり、従順は即ち死である。抗う生と従う死とのせめぎ合いの振幅の内に、生物のそれぞれの一生は形づくられる。色即是空と空即是色の往還が生き物の生を象っている。

(ところで、鉄腕アトムに太陽光発電機あるいは太陽光触媒の燃料電池を実装すれば、動物生をもった植物、あるいは植物生をもった動物、のような究極 の生き物?が想像できるが、それは生命体なのかどうか。近代西洋の究極の人間の理想像は、こんなロボット?なのだろうか。脳に蓄積されたデータは人工神経 回路に転送され、脳はチップの中に置換され、エネルギーは太陽光から取得し、四肢躯体はありとあらゆるメカニックに代替される。そこには永遠の生があるよ うにも見える。しかし、それは生命体なのかどうか。)

というような少し大げさな前置きで、四季に抗う文明人が四季に従う自然人でもあるということを、夏型から冬型への体調移行期・秋口の変調から確認する日月の報告である。

身近でとるに足りない体調の変調として筋肉の「冷え」を考えてみる。
春5月頃と秋9月頃は、正確な統計もないが「筋違い」が頻発するとの確信的な印象がある。
首筋の寝違い、(軽い)ギックリ腰、背中の筋違い、そして二の腕の筋違い=スラウデなど。

ピッチャーがウオームアップをせずに全力投球する。ランナーがジョグもせず身体もほぐさずに全速で走る。こんなことをすれば、軽ければ筋違い(微少 部分の)、重ければ肉離れ(完全な)という筋腱損傷を起こす。冷えた筋肉は、十分な伸張性をもたずブレーキとなる反射も最適とはいかず、痙攣を起こしやす い。痙攣するだけではなく、強い収縮に制動が働かず自力で自分を損傷したり、強い伸展に制動がかからず延びきって損傷したりしてしまう。

夏場とおなじような服装、寝具、習慣、このような生活環境のまま寝ている身体に冷たい秋風はしのびよる。自覚しにくい僅かな冷えが体躯四肢を侵す。 この筋肉の軽微な冷え状態に、起床後あるいは午前中の準備運動の不十分さが重なり、それに少しの過負荷あるいは無理な体勢が加わると、いともたやすく「筋 違い」を起こす。癖というほどに「筋違い」を起こしやすい人の、癖になった筋違いの部位の筋肉は、おそらく傷ついた筋繊維が瘢痕となっているのかも知れな い。

秋の夏型から冬型への体調移行期に、なぜ筋肉の冷えが生じやすく筋違いが起こりやすいのかを説明するのは比較的容易である。一方、春の冬型から夏型への移行期でもなぜ「筋肉の冷え」が生じやすく筋違いが起こりやすいかを説明するには、少し別の理由づけがいるようである。

冬 型では、外気温と衣類・空調を含む人工気象環境と労作運動の条件によりバリエーションがあろうが、基本は放熱を減らし産熱を増すことになる。身体の外殻温 度域である皮膚と体壁末端の筋層の血流量は、それぞれの組織を養うに足る固有栄養量に抑えられ、熱の放散が最小限に抑制されているだろう。ただ筋層は、労 作運動やふるえによる筋産熱によって、直ちにその温度も上昇し、血流もそれに応じて容易に増加する程度の抑制のされ方だろう。当然、冬場に準備運動もなく 「冷えた筋肉」によって急な運動や無理な体勢をとろうとすれば、やはり容易に「筋違い」を起こすはずである。

晩春から初夏にかけ急速に外 気温が上昇してくると、皮膚からの放熱を促進するために外殻温度域を環流する血液量も一気に増加する。皮膚と体壁筋層を流れる血液量が共に一定傾向で増加 するとしても、放熱器官である皮膚の血流量の増加要請の方がより大きいとしたら、相対的には筋層を流れる血液量が一時的に不足しがちになることもあり得 る。あるいは、皮膚で放熱した後の冷却された血液が環流する静脈系が筋層の温度を下げしてまうことなども考えられる。

もっと単純な説明には、外界温と衣類・寝具のミスマッチ、あるいは生理的な気候馴化と習慣上の保温行動のズレということもあげられる。
筋肉 の痙攣(つれ・つり)の代表格である「ふくらはぎのケイレン」は、神経や筋肉の疲労(神経痛を起こしやすい状態や神経筋の伝達疲労も含めて)、冷え、無理 な体勢の負荷などの要因によって起こる。冷たい水中を泳ぐ、苦手なキックを多用する、そんな時はてきめんにツル。とても痛い。
ふくらはぎのケイレ ンは、運動中やその後によく起こるが、就寝中とくに夜中から早朝にもよく起こる。ケイレンしやすい人は、普段からふくらはぎの筋肉が硬い。就寝中のケイレ ンは、このような条件をもった人が寝ている間にふくらばきの筋肉を冷やしてしまうことで起きるように思われる。
筋肉を冷やすとなぜケイレンしやすくなるか、この問題については長くなりそうなので別考にしよう。
こ の夜間就寝中のふくらはぎのケイレンが、冬場ではなく夏場に多いというのは意外な感じもする。寒冷期、身体は衣類や寝具によって十分に纏われ保温される。 それに対して夏期は、衣類も寝具も薄く、場合によっては裸に近くなる。このような姿態でいると、夜半から明け方の最低温度時間帯には、外殻温度域である下 肢下腿の温度はより低下するだろう。つまりふくらはぎは冷える。近頃は、日中夜間共に冷房がよく効いた環境も少なくない。要するに、冬よりも夏の方がふく らはぎは冷えやすい。

気候の変わり目、特に寒冷期と温暖期の境目では、寒冷温暖の順調な移行だけではなく一時的には逆行するような気候のブレは少なくない。そんなブレや すい気候不安定期では、身体生理の気候馴化の進み具合と、生活習慣における保温行動の追随の間にズレが生じやすい。こんなスキ間に、春風秋風は冷たく吹き 込み、節々や筋肉、呼吸器を侵す(イメージとしての話・・・・まあこれが伝統医学的な表現の一種であろうか)。

二十四節気の全てではないにしろ、節目となる節句・節供の行事は、気候馴化と保温行動のズレを意識させ修正させるイベントでもあったろう。人工気象 環境が発達した文明社会に暮らす現代人には、節供のこのような意義は忘れ去られている(副産物は、何らかの助言がなければ、暑くても服を脱ごうとしない、 寒くても服を着ようとしない、こんな若者や子供達の存在であろうか)。

ここ2週間、Fさん・ギックリ腰、Tさん・背中の筋違い、Kさん・スラウデ、Sさん・ギックリ腰、Tさん・ギックリ腰、Yさん・ギックリ腰、Kさ ん・首と背中の筋違い、Tさん・首の筋違い(腕の神経痛)など、みな症状は軽度で日常生活上の支障はさほどではないがそれなりに痛い「筋違い」の患者さん たちである。

スラウデ、漢字で書けば「空腕」であろうか。わが故郷・筑後地方の方言では、ウソ・偽りを「スラゴツ」と言ったりする。これも漢字で書けば「空事・空言」であろう。絵空ごとの「そらごと」であろう。
スラウデ「空腕」は、手みあげ無し・手ぶらという意味で使われることもあるらしい。
ここでいうスラウデは、前腕(肘から手首まで)の伸側(手の甲側)の筋の痛みをいう。専門的な用語を使えば、主に小指と薬指の伸筋の筋筋膜の傷害の一種ということになるだろう。
ス ラウデですかね、と自己診断する患者さんたちに聞くと、特別に思い当たる節もなく、ちょっとした動作で手首を捻った時に手首のスジを傷めたとか、昔田植え 前の苗取りの後によくスラウデを起こしたなどとおっしゃる。自分自身の体験で言えば、20年ほど前にパソコンに初めて触れた頃、5本指を使ったブラインド タッチに挑戦したことがあって、その時になかなか上達しない小指や薬指のキー操作が原因と思われるスラウデになったことがある。大したことはない痛みでは あったが、なかなか治らず、しまいにはテニス肘といわれる前腕伸筋の筋腱痛と腱の付着部の限局した痛みの状態に近くまでなって、結局は5本指使いを止めて しまった。それで今でも3本指のカナ変換で、けっして入力は早くはないのだけれど。

なぜスラウデというのか考えてみる。
普通の日常生活では薬指・小指を伸ばす筋の使用頻度は最も少ない。これらの筋肉の能力水準は低くかつ動 かす(そらす)ための準備状態も不十分なことが多い。こんな筋肉の状態で、急に手首をひねったり反らしたりする動作が加わったり、指を反らす動作(手首の 伸展も含む)を多用した場合、これらの筋肉に筋違い様の傷害が発生するのではなかろうか。スラウデは、何気ない動作や思い当たることが少ない動きを起点と していることを指しているように思われる。
難しくいうと、小指や薬指の伸筋では、等尺性収縮や遠心性収縮が多く、求心性収縮は少ない。つまり、小 指や薬指の伸展動作は日常生活上では少ない。そのため、それらの指に急に伸展動作(求心性収縮)を負荷すると、その収縮を制動する反射がうまく働かなかっ たりするなどして筋膜や筋繊維の微細な損傷=筋違いを起こしやすいのではないだろうか。
スラウデの進化形としてテニス肘(上腕骨外果炎)を考えてもよくて、はさみやドライヤーを長時間使う理美容師、にわかテニスプレーヤー(プロでも傷害を抱える選手は多いらしいが)、手首の返しがきつすぎる飛ばしたがりのゴルフプレーヤーなどに多くみられる。

人工的にスラウデを作り出すことができる。まず、氷でそれらの伸筋部を冷やす、そして慣れない鍵盤楽器の演奏やキーボード操作などを5本指で(小指 と薬指をしっかり使って)負荷する。それを繰り返せば、確実に手の三里というツボの位置から手首にかけてジワジワした痛みが生じるはずである。これに、少 し重い物をグリップを効かせて(小指・薬指に力を入れて)、手首を反らすような持ち上げ方をさせてやればもっと効果的だろう。

スラウデ話を思いつかせてくれたKさんは、秋口の冷えを腕に受け、その腕で朝食の時にポットを持ち上げ湯を注ぐ動作をして前腕伸筋の筋違い=スラウデを発症された。

軽いスラウデは、保温だけでも数日で癒える。少しひどければ、それらの筋肉への軽い鍼灸刺激でカタがつく。こじれると、手首の外くるぶしや肘の外果あたりに着いている腱などに、しつこく治療に抵抗する痛みが続いたりする(腱鞘炎といわれることもあるだろう)。

いずれにしても、筋違いの予防は、筋肉の保温と十分な準備運動、日頃適度な求心性収縮を負荷しかつその後にストレッチすることなどであろう。

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