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2014年11月25日 (火)

支持系筋-ヒラメ筋 (2002/08/21) 

◆10数年前から膝痛と下腿内側のツボの関係について注目し、この部の①脛骨縁の奥と②膝の裏で、硬く触れる索条の硬くて強い握圧痛を示す筋と、膝蓋骨内外縁から裂隙にかけての傷害の関連性について考え続けてきた。膝痛と下腿筋群の関連性を考察した成書を探してみたが、未だお目にかかれていない。

◆このサイトにも「緩慢な捻挫」と題してこの間に考えてきたことをメモしている。
多軸多関節運動の動的調節機構理論という長ったらしいタイトルで、運動器傷害論の概念を掴んでいたつもりであった。
つい最近、整形外科医の井原秀俊という先生の『関節トレーニング』(協同医書出版社)という本を読んで驚いている。どちらかというと傷害の診方が構造・構築・形態の静的な側面にばかり囚われていると、私には思われる日本の通常の整形外科の流れからは少しはみ出した神経生理・運動生理の豊富な研究成果を踏まえたダイナミックな運動器傷害論と治療論=「神経運動器協調訓練」がそこにあった。

◆仙台の故橋本敬三先生は、ダイナミックな運動力学的発想によって養生・治療アプローチである操体法という運動・治療・訓練法を体系づけられた。操体法は、神経生理・運動生理の研究成果を基礎とした神経運動器強調訓練などとはひと味違った、総合の観察眼と真摯な実践の成果ともいうべき病理論・治療論と実践の体系であって、神経生理・運動生理の研究がこの体系を後付けできるのはまだまだ先のことになるだろう。

◆関節トレーニング・神経運動器協調訓練も操体法も共に優れた理論と実践の系を構築しているが、優劣ということではなくて両者の差を考えてみる。
この両者の間にある差は、医における観察の問題、より本質的には思想の問題にたどり着くように思われる。
過剰で些末とも言える思想・観念を抱えているのが「伝統医学」であり、思想や観念を極小化し、「実証」(という観念=客観性、科学的実証、そしてはやりのエビデンスである)に囚われているのが「近代医学」である。
思想や観念や哲学はいらない、という人々の脳みその奥には浅薄で幼稚な思想と観念と哲学があることは、ナチズムを呼び込む優生学や社会進化論の亜流に成り下がるであろう遺伝子科学技術の近未来型を想像するだけですぐに判ることである。
雄大で上等な生物学思想が、本当は必要なのではあるまいか。

◆関節トレーニング・神経運動器協調訓練も、全体性・総合性の発想から実証を定義し理論化している点で、単層的な機械論に陥りがちな整形外科学を救済している。
伝統医学の過剰な思想は、雄大ではあるけれど必ずしも上等とは限らない。操体法の思想は、過剰で些末で形式的な観念化を避けながら、伝統医学のもつ全体性を理論と実践の系に生かしているように思われる。
ただ、身体姿勢、運動あるいは動作に歪み(を生ずる事象)の連鎖に階層があり位相があるのが身体の全体性の実相なのだとすれば、生じてしまった歪みもまたその連鎖の一層(相)に過ぎないのであって、これも一つの手法である、というほどの自己限定がそれこそ全体性の思考に通じるのではないか、と全体性を考えながら分析したくなる。
足首の硬さ、動きやすさは下腿・大腿筋系の屈伸両系のトーヌスあるいはその差によるのだとしたら、例えば下腿筋群のトーンや筋腹長を決めているのは(生理過程としては筋内固有感覚器とその反射系の働きだとしても)どのような要因だろうか。
ここに、踵と下腿を足関節でまたぐ一関節筋であるヒラメ筋をその代表選手として着目した、「支持系筋群」という概念を考えている理由の一端がある。

◆腰痛の予防と治療の第一歩は、腰椎や仙骨周辺の障害であれ腰筋の障害であれ、まずはタイトなハムストリング筋群を弛めることにある、というのは理論的にも実践的にも知られていることである。にも関わらず、自分自身も含め巷の医療機関の対処は、まず腰そのものに眼を向けはするが、そこに連なる下肢全体、背中全体を眺め、動的な「連鎖」「重なり」を考慮するのが疎かになりがちである。

実際、タイト・ハムストリング筋群を弛めるのは難しいことで、患者自身が苦痛に耐え(後は気持ちがいいのだが)労と時を惜しまずに自己改造に取り組まないと成功は覚束ない。  当座の痛みを緩和することと、傷害を生じにくい身体機能と動作パターンを獲得することの間には大きな隔たりがある。患者も治療者も安直に流れやすい。
大腿後面の大きな筋群であるハムストリングスは、下腿固定位では膝関節を伸展し、下腿遊相位では膝関節で下腿を屈曲する強力な動作系筋である、と同時に大腿固定位では股関節で大腿に対する骨盤の前方回旋を制動し骨盤を支持固定する支持系筋でもある。

腰痛の直接因とされる椎間板や椎間関節などの脊椎周囲、骨盤と脊椎を連結する仙腸関節、それに腰背筋にかかる負荷のレベルは、骨盤支持系筋であるハムストリングスの伸展性にかかっている。ハムストリングスの伸展性が、脊椎周囲、仙腸関節、腰背筋の傷害の遠因となっていることに間違いはない。
繰り返せば、ハムストリングスは膝と股関節をまたぐ二関節筋であり、ヒトの直立位において大腿骨に対して骨盤-体幹を引き上げ起こす支持系筋群である。ヒトの作業姿勢として最も重要な中腰前屈位は、股関節での大腿骨に対する骨盤の前方回旋と下部腰椎・仙骨の間での屈曲性に依存している。ハムストリングスの伸展性は、ヒトが膝・股関節の伸展位をもって直立したときの筋腹長として固有知覚系を介して「記銘」されている。ハムストリングスの伸展性は、骨盤の前方回旋の度合いを左右している。

タイト(「記銘」筋腹長が短い・収縮残留が大きく硬く窮屈)なハムストリングスは、骨盤の前方回旋を制動することで、中腰前屈位における下部腰椎・仙骨の椎間による屈曲の依存度を高め、下部腰椎椎間板と骨盤仙骨連結部への負荷を増すことになっている。

作業姿勢として最も重要なこの中腰前屈位では、足関節と膝関節の屈曲位を伴うことで、腰椎・仙骨での屈曲度を大きくすることなく、骨盤の前方回旋の依存度をより少なくして体前屈を達成することができる。つまり、ハムストリングスの骨盤制動作用による下部腰椎椎間板と骨盤仙骨連結部への負荷の増大をより少なくするには、ハムストリングがタイトでないことはもちろん足関節と膝関節の屈曲がこの肢位でスムースに実現されることが重要である。

この場合、膝関節と足関節の屈曲は常にセットになって機能しており、足関節の屈曲の深さが膝関節の屈曲位の深さを規定するが、その足関節の屈曲位を規定しているのは下腿のヒラメ筋の伸展性あるいは遠心性収縮である(より正確には、ヒラメ筋の働きは足関節において下腿-体幹を後ろに引き起こし前へ倒れるの防ぐ直立の第一制御エンジンである。足関節が屈曲位となっても前倒しないでいられるのは、このヒラメ筋の遠心性収縮の働きのおかげである)。

さらに、中腰前屈位では、軽度屈曲位で固定された下腿に対して膝関節で大腿を軽度屈曲位に支持固定し、中腰位となった体幹が後倒し腰が落ちてしまうのを防いでいるのは強大な膝伸筋=大腿四頭筋群である。この時、四頭筋群は支持系筋として働いているが、歩行、走行、起居動作時には主要な動作系筋であり、そのため応答性が高い粗大力を発揮して筋腹長の伸縮が大きい反面、疲労しやすいという性質をもっている(逆に支持系筋群は、応答性は決して高くないが、ねばり強く持久力があり、筋腹張の伸縮が少ないなどの性質をもったものとして一般的に定義されうる)。

ハムストリングスは、同じくこの大腿の動作層で、固定された膝・大腿を起点に股関節で骨盤の適度な前方回旋を支持固定(つまりは制動し)しながら下部腰椎椎間板と骨盤仙骨連結部への屈曲負荷を和らげつつ作業姿勢の保持を実現している。
中腰前屈位は、足関節屈曲位で下腿が支持固定され、膝関節屈曲位で大腿が支持固定され、柔らかいハムストリングスが骨盤前方回旋の制動作用を適度に弛めることによって理想的な作業姿勢となる。
作業姿勢で腰を十分に落とすには、ハムストリングの柔らかさ、それに膝と足首の柔軟性が必要であり、これが腰痛予防と養生の基本原則となるわけである。

腰痛治療に使われる足の太陽経筋のツボや足関節周りのツボは、上記のような運動連鎖系の中で位置づけることが可能である。
ヒラメ筋やハムストリングスなどの支持系の筋群のハイトーヌス・収縮残留状態・固有長の短めの「記銘」状態・つまりは筋腹の硬さ・握圧痛の強さ(筋硬)を解いてやることの意義は、このような運動病態論の流れのなかで考えることができる。

◆直立し二足歩行するヒトの姿勢維持において、静的にも動的にも大地に対して脚を支持し固定しつづけるヒラメ筋は支持系の第一制御エンジンである(腓腹筋は、歩行や動作の第一推進エンジンとして大地を蹴る)。

支持系筋群は、相対的な比較的な意味合いでであるが、応答性は決して高くないが、ねばり強く持久力があり、筋腹張の伸縮が少ない、縁の下の力持ち的性質をもっている。この中でも特に「筋腹張の伸縮が少ない」こと、関節固定を実現する筋腹長の短縮を伴わない等尺性収縮と遠心性収縮が主体である点(大きな関節動作を実現する等張性(求心性)収縮が主体の動作系筋と違って)が、運動器傷害の連鎖の中で注目されるべきであろう。  大きな動作を伴わず、伸び縮みが少なく、かつ長時間にわたって高い緊張を強いられている等尺性収縮が主体である支持系筋群は、タイト(「記銘」筋腹長が短い・トーヌスが高い・収縮残留が大きく硬く窮屈な)な筋腹をもつ必然性が高いことになる。

ヒラメ筋やハムストリングスや中殿筋や上腕三頭筋の筋腹の硬さ(筋硬)は、筋腹をゆっくりと強く握る握圧法や指圧によってテストすると、たいていは極めて強い痛みを発することで知られる。これらの筋肉の筋腹は、ただ硬いのではなく握圧や指圧によって特異的な痛みを示す。等張性収縮(求心・遠心性も含め)が主体の動作系筋群の筋腹に、同じような握圧や指圧を加えても、このような特異な痛みは生じない。

この支持系筋群の筋腹の握圧や指圧で示される特異な痛みは、筋内圧力、筋膜刺激、筋腹内を走行する神経に対する圧迫刺激など何れかによるのであろう。

支持系筋群のこの特異な握圧痛は、支持系であるが故の慢性疲労として考えられる。支持系筋群の慢性疲労は、支持系の機能である多関節運動における関節軸位や関節滑動の制御を損ない、結果として関節並びに関節周囲器の傷害を招く遠因となる(緩慢な捻挫)。

このような特異的な握圧痛を示す支持系筋群に、繰り返して握圧法やストレッチや操体法や鍼刺激を加え続けると、この握圧痛はかなり軽減する。

◆膝関節の動作において、関節の緩衝適合の装置である半月板を屈伸位の最適位置に誘導適合させているのは、内側ではハムストリンクグスの一部でもある半膜様筋、外側では下腿後面筋の膝窩筋であるとされている。膝の屈伸に際して、これらの誘導・調節系の筋群が正しく働くことによって、関節の緩衝適合が実現している。

関節の緩衝適合の不具合は、様々な関節構成体の急性あるいは慢性の損傷をもたらし、関節運動を障害し軟部組織を傷害する。  誘導・調節系筋群も支持系筋群と似たような性質をもっており、やはり慢性疲労と考えられる筋硬が出やすく、握圧痛を強く示しやすい。膝窩筋の握圧痛も強いもので、腹臥位で膝裏の中央からやや内側よりの部分で腓腹筋腱と共に硬く触れるこの筋の握圧痛は、ヒラメ筋のそれに劣らない。

原発性の関節滑膜炎などを除く多くの膝痛は、関節の緩衝適合の働きによって保護されている装置の傷害と考えられ、膝の屈伸における誘導・調節系の筋群(膝窩筋、半膜様筋、内転筋、大腿筋膜張筋など)の関節制動機能が損なわれた結果であろう。

◆下の表は、勾配を変化させたトレッドミル歩行時といろいろな姿勢において、身体各所の筋肉群がどの程度のエネルギーを出しているかを調べたものである。

後下腿筋群はヒラメ筋と腓腹筋を、後大腿筋群はハムストリングスを、前大腿筋群は大腿四頭筋をそれぞれ現している。

歩行では、足首を支持固定しながら地面を蹴る、ヒラメ筋と腓腹筋(合わせて下腿三頭筋)の働きの大きさが特徴的である。勾配がつくに従って大腿四頭筋、さらにハムストリングスとその筋肉エネルギー出力が上がっているのがよくわかる。

  勾配0度 勾配2度 勾配4度 勾配6度 勾配8度
体幹起立筋群 25.4 12.0% 19 8.0% 21.3 7.4% 28.3 9.2% 24.3 7.1%
前腹筋群 16.9 8.0% 18.4 7.8% 20.5 7.1% 21.2 6.9% 21.4 6.3%
臀筋群 15.6 7.4% 17.9 7.5% 27 9.3% 34 11.1% 32.7 9.6%
前大腿筋群 34.5 16.3% 57.7 24.3% 75.9 26.2% 79.7 26.0% 110.4 32.5%
後大腿筋群 39 18.4% 47.8 20.2% 49.9 17.2% 54.4 17.8% 52.5 15.4%
前下腿筋群 11.7 5.5% 11.4 4.8% 13.5 4.7% 14.3 4.7% 18.1 5.3%
後下腿筋群 69 32.5% 65 27.4% 81.3 28.1% 74.3 24.3% 80.6 23.7%

トレッドミル歩行における主要局所筋エネルギー代謝量(単位W)  (横山 1980) 
  ※赤枠は50ワットを超える筋群

各種の姿勢での特徴は、爪先立ち・弛緩立位・下り坂立位・中腰位の各姿勢での後下腿筋群の出力で、爪先立ちのそれは足の底屈に要する筋力を意味しているが、他の三者は体前傾に対応して体幹を後ろに引き起こしている直立の第一制御エンジンとしての役目を意味している。
      この表の中腰位は、写真も図もなかったので詳細は不明だが、おそらく前屈の意味であり、腰を落とすという意味での中腰ではないようである。本論中で言及している中腰前屈位は中腰2に近いだろう。             

  爪先立ち 登り坂立位 緊張立位 弛緩立位 下り坂立位 中腰位1 中腰位2 中腰位3 最前屈位 椅座位 仰臥位 伏臥位
体幹起立筋群 8.5 4.9 6.4 9.2 3.3 34.3 16.3 14 5.3 4 1.6 3.5
前腹筋群 7.8   19.7 5.9   8.3 7.3   7.1 5.6 2.7 3.4
臀筋群 4 7.6 17.4 5.7 2.7 11.7 9.3 15.8 13.8 2.3 1.5 2.4
前大腿筋群 7.1 7.7 21.9 6.4 6 4.8 53.3 75 4.9 2 1.2 2.8
後大腿筋群 4.4 1.5 3.3 2.8 1.6 8 2.6 3.1 12.2 0.7 0.5 1.2
前下腿筋群 3   2.7 0.7   0.8 2.3   1 0.2 0.5 0.3
後下腿筋群 25.5 6.3 5.6 11.2 12 6.6 13.5 13.8 9 1.4 1.4 1.3

各種姿勢保持中の主要局所筋エネルギー代謝量(単位W)  (横山 1993)
※赤枠は10ワットを超える筋群

◆同じような筋電図法による姿勢の研究では(岡田 1972)、
   直立姿勢で
      ヒラメ筋の10~20%の活動レベル(他の筋群はほぼ5%未満)
   中腰姿勢(腰を落として前屈はしない)で
      大腿四頭筋の10~20%の活動レベル、
      腓腹筋(外側頭)とヒラメ筋の5%前後の活動レベル(他の筋群は5%未満)
   という結果が出ている。

◆何れにせよ「ふくらはぎ」を形づくっている下腿三頭筋(ヒラメ筋・腓腹筋内側・外側)の働きぶりは大変なものである。太腿四頭筋と「ふくらはぎ」の筋肉 の容積と重量を比較すれば、3対1ほどであろうが、局所エネルギー代謝量の差はそれほどではない。大腿四頭筋の疲労しやすさ、筋肉の痩せやすさと、「ふく らはぎ」の疲労しにくさ、筋肉の痩せにくさは好対照である。

アメリカで男性性の象徴は、と言えば「ふくらはぎ」の筋肉の盛り上がり方(特に腓腹筋外側頭か)という。それで「美容整形」では、「ふくらはぎ」を大きくふくらませる形成術があるそうである。

アトラス、ヘラクレス、ダビデなどの彫像の「ふくらはぎ」、相撲絵に見られる力士のふんばった脚に見られる「ふくらはぎ」。「ふくらはぎ」には、「ふともも」とは違った縁の下の力持ち的な力強さのシンボリズムがある。

◆ふくらはぎの養生法として患者さんに指導する幾つかの体操。
      
つま先立ち・踵落とし(階段などの段差を利用してつま先で支えて踵を十分に落とす)
       ・・・・ ふくらはぎの強い収縮と強い伸展
    
つま先立ち歩行
       ・・・・ ふくらはぎの強い収縮、立位バランスの強化
      
つま先立ちスクワットと踵つけ蹲踞
       ・・・・ 腓腹筋の強い収縮と少しの伸展、ヒラメ筋の強い伸展、立位バランスの強化
      
四股ふみ(踵を地面につけ十分に腰を落とす、可能であればスリ足前進)
       ・・・・ ヒラメ筋の伸展しながらの強い収縮(遠心性収縮)
       ・・・・ 大腿内転筋とハムストリングの伸展しながらの収縮

いつかデジカメ写真を掲載してみたいと思っている。

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