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2014年10月12日 (日)

還流系(静脈・リンパ)の障害が自発痛の成因か? (2001/11/12)

◆私の鍼灸臨床で最も手を焼く症状として、①急性期の重症の根性坐骨神経痛、②五十肩(肩関節周囲炎など)の急性期の(夜間)自発痛、などがあげられる。

◆「痛み」と「疼き」の違いを言葉としてこだわって使い分けられた東北出身の女性がいた。それは、「痛いのでなくて、痛むのよ」といった感じであったが、言ってみれば動かして痛むのではなく、じっとしていても痛むということを言いたかったのだろうが、少し専門的な言い方をすれば運動痛と自発痛ということであったわけである。

◆漢字の痛と疼の義もおおよそそのような意味をもっているようで、疼痛は運動痛と自発痛を区別せずに総称した術語になっている。実際的にそう厳密に区分する必要がない場合もあるということであろうか。

◆五十肩の夜間自発痛や坐骨神経痛の疼きはとてもやっかいなもので、動作や姿勢に関係なく(実際は姿勢は大きな要素なのだが)、安静状態で何もしなくても「ズクズク・ズキズキ・ズンズン」から「ダル痛くて切って除けたい」と何とも表現しにくい「疼き」である(私は「ダル病み」と呼んでいる)。

◆自発痛の原因については、たいていの場合「炎症」ということで片づけられる。確かに皮膚の化膿性炎症でズクズクと痛むのは大抵の人は体験済みであろう。膝の非化膿性関節炎の痛みの体験者も多いだろう。リウマチ性関節炎の自発痛も相当に辛いもののようである。

◆非化膿性の関節や筋の炎症には、抗炎症鎮痛薬やステロイドホルモンなどが使われ良く効くが、五十肩や坐骨神経痛の急性期の強い自発痛に対する効果にはやはり一定の限界があるようだ。もちろん鍼灸の効果もそう大きくはないけれど。

◆炎症の生化学的メカニズムはかなり詳細に解明されており、薬物研究の進歩も大したものであるけれど、古い歴史をもった生薬系の有効成分の研究から生まれたアスピリンやインドメタシンなどのような薬も未だに現役として大いに活躍しているからようだから何とも・・・

◆炎症でもそうであるけれど「自発痛」の生化学的メカニズムの究明に対して、機械的・物理的メカニズムの究明は「しつくされた」感があるのか通り一遍であるような印象がある(つまり治療に生かされる部分が少ないような)。(血行)循環障害というのがそれである。

◆五十肩の夜間自発痛について、骨髄内の圧力に着目した研究報告があった。1970年代のレポートでその後、整形外科の専門誌を追いかけていないのでどうなっているかよく分からぬが、教科書的な書物には「癒着性滑液包炎」が五十肩の自発痛の成因であるような書き方が普通のようである。

◆つい最近、長年疑問をもっていた「自発痛」の成因(物理的メカニズム)について考えさせられる非常に興味深い患者さんに治療させてもらう機会があった。

◆腎臓人工透析歴20年、10年前から透析開始後2時間ほどで右肩の肩峰の下方が腫れてきて「疼く」、非常な痛みである、それと前後して肩甲骨上部から首筋にかけて痛む(神経痛様のダル病み)。 痛みは透析後まで一定時間続く。肩関節部の腫れも翌日まで続く。 関節の可動域は正常で動作痛はない。 10数年前、実際に五十肩(凍結型)で夜間痛の経験もあり、「凍結解凍」に1年半ほど要した。

◆長年透析をしている人には、関節周囲や関節内に「何かが溜まって」結節状をなすことあるらしい(アミロイド・タンパク?)。透析中に肩関節周囲が痛む方も少なくないらしい。

◆肩関節部の腫れは、その消長経過や発赤や熱感などの炎症症状がないことなどからも炎症性の腫脹とは考えられない。

◆人工透析は、透析装置に血液をバイパスするために前腕の皮静脈を使うことが多いらしい(シャント形成)。 透析された血液は静脈中を還流するから、腕部の静脈圧は上がり皮下リンパ流も増加して圧力も高まっているはずである。 透析も仰臥位ではなく座位の方がより楽である。

◆この患者さんの肩の腫れは透析翌日の初回治療時にも見られたが、鎖骨下・大胸筋部と腫脹部の皮下刺(1ミリ前後)で30分ほどの治療後には半減してしまった。

◆肩の腫脹部の近位端(より体中心に近い方)から腕にかけて冷やす、胸から肩首にかけて暖める、と透析中の養生をアドバイスする。効果の程はまだ未知数。

◆腫脹部への流入量を減らし(皮下静脈を縮めリンパ流を抑制る)、流出量を増やす(皮下静脈を広げリンパ流を促進する)、という単純な考え方だけれど、本当はコロンブスの卵ではなかろうか。

◆この患者さんの透析中の肩部の腫れと自発痛は、透析中に同部へのリンパ還流量の増量が、五十肩・凍結型の既往によって何らかの機能低下を引きずっている肩関節周囲の包状組織に貯留し腫脹させ、組織内圧が異常に高まってしまったことがその物理的要因ではないだろうか。

◆還流系(静脈・リンパ)の障害による組織内圧の高進状態が、「自発痛」を発生させている「傷害状態」ではなかろうか、という仮説。

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