005 神経痛

2014年11月30日 (日)

正座シビレと神経痛 (2003/03/23) 

 正座などで起こるシビレは、誰もが体験したことのあるごく軽い末梢神経障害であって、神経(束)が圧迫絞厄された結果と考えられる。まずビリビリ・ジン ジンとした異常感覚が、しまいには感覚麻痺が起こる。回復の過程では異常感覚は痛みに近くなり感覚過敏も生じる。ただ神経痛としては感じられないのが普通 である。この時にシビレた部分を突っついたりされるととても痛いもので、こんなイタズラもこれまた誰もが経験していることであろう。

      
 正座シビレは、ごく軽い末梢神経障害であるが、機械的圧迫による伝導ブロックの典型でもある。この種の神経伝導ブロックの軽度で初期的な段階の徴候は、 興奮性が亢進するだけではなく、圧迫部位に局所電流が生ずることなどによって自発的に(つまりは受容器からの刺激に応答したものではない)高い頻度の活動 電位の発火が起こっていることを意味している。
      
 例えば、脊椎内あるいは椎間孔からその周辺部位で神経繊維の束(神経根)に圧迫性の伝導ブロックが生じているとしよう。非常に多くの神経繊維が束ねられ ている神経根では、それを包む結合組織の鞘が丈夫であればあるほど、外部からの圧迫力は中心部で大きくなるだろう。中心部には、より遠く末梢に至る神経繊 維が走っているのが合理的である。つまり、根部周辺での神経束の機械的圧迫や絞厄で生ずる伝導ブロックでは、その束の中で最も遠位に達する有髄感覚神経繊 維(固有感覚や触覚など)から順に障害が起こるのではないかと想定される。これは、現実の神経痛の事態によく合致した説明ではないだろうか。(だとする と、神経痛に先行して、伸張反射などの姿勢や運動に関する脊髄反射に何らかの失調徴候が見られるのではないかと考えられる。)
      
 正座シビレの場合、神経痛様の痛みはないのが普通であるが、回復期に生ずる強い異常感覚が限りなく神経痛に近い。回復時間が素早いために神経痛のような痛みとして認識されることが少ないのだと思われる。
      
 神経痛とは、伝導ブロックの軽度な段階での興奮性の高まった徴候の一つであり、ブロックが生じている神経部位で膜安定化が損なわれたりしてイオン擾乱が 大きく長く続くことなどによって過剰な局所電流が生じ、(末端からの伝播ではない)活動電位が自発的に過剰に発生している状態だということになる。

        末梢神経の侵害状態が起きている部位に直接影響し(痛みや疼きを再現することで確認されたりする)、その侵害状態を和らげるような治療的な刺激効果の説 明は解りやすく、実際によく使いそれなりに効果があると思えるのだが、痛み疼き感じられている部位への刺激の効果や、その疼きを再現するような中間的な部 位への刺激効果はどう説明したらよいのだろう。
      
 伝導ブロックされ侵害状態に陥っている神経は、その侵害部位を出発点として過剰なインパルスを発しているわけだが、そのインパルスはその支配域である体 壁の痛みや疼きとして感じられる。この支配域の痛みや疼きは、幻肢痛のような一種の錯覚のようなものと考えても良い。
      
 この痛みや疼きを感じている部位の受容器は興奮しておらず、従って活動電位の発生も上行伝播もない。痛み疼く部位への刺激の効果や、その痛み疼きを再現 するような中間的な部位への刺激効果を説明するとすれば、そのような刺激は軽度の伝導ブロックが起こっている部位に向けて活動電位を伝播させ、この下流か ら到達した活動電位によってイオン擾乱状態が何らかの干渉を受けるのではないか、という仮説がたてられる。もう一つの仮説は、二次神経レベルでの側抑制や ゲート制御であろうが、これは「なでさすり」効果の説明として有力なものであろう。

       伝達ブロック部位に侵害状態を形成し、そこで興奮性の高まりを左右している要因はどのようなものであろうか。低気圧の接近と神経痛の増悪の間には、本当に関連があるのか、あるとしたらどのようなメカニズムが働いているのだろうか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

神経痛・・・・生理学のおさらい (2003/03/23) 

「痛み」は特殊な知覚体験である。
視覚、聴覚、体性感覚(触覚、圧覚、温度覚、痛覚)、味覚、嗅覚の5種類の感覚系が検知した感覚情報が一定の水準以上に達した場合、つまり感覚を惹起する刺激が個体を危機に陥れるような「侵害性」(生理的な)を帯びた場合に広義の痛み感覚が生じる。
これに対して、狭義の痛み感覚は、主に体性感覚(温度覚、触覚、圧覚、痛覚)に加えられた生体を損傷する可能性のある侵害性刺激によって生じている。

一般的に痛み感覚として論じられているのは、この後者についてである。

痛み感覚は、その生理的侵害性が過去の体験と照合され、個体の生存を危機に陥れるものと解釈され、いわば心的に侵害性が認知されて初めて「痛み」として知覚される。

痛みと苦痛の違いはこの辺りの事情に淵源があるわけで、そこに個人差つまりは主観性という修飾作用を受ける「痛み」評価の難しさがある。良く知られているように、予後経過への不安の有り様が「痛み」を大きく変化させる。

われわれは、手技施術を行う治療家・術者である前に、痛みはあるが苦痛ではないと病者が認識できるような、それなりの「安心」を与えられる存在としての医者でなければならない。もっとも、現実に成果を上げている鍼灸家は、常にそのような医者存在として、病者の苦痛を緩和し、その術によって痛みレベルに対処しているのであろうが。

体性感覚の伝送の経路は、受容器、一次神経細胞(末梢神経)、二次神経細胞(脊髄)、三次神経細胞(視床)を経て大脳皮質(感覚野・連合野)に達する。一般に単一の神経細胞(繊維)内での信号の伝わり方は伝導、神経細胞間のそれは伝達、そしてそれらを括って伝送という用語が使われている。

外界のエネルギー(物理的なあるいは化学的な)は、受容器に刺激として作用しそこで電気的なエネルギーに変換される。刺激の強度は受容器の電気エネルギーの大きさ(受容器電位の振幅)に写し取られる。受容器電位が一定の水準(閾値)をこえると、接続している一次神経細胞の末端にインパルス(活動電位)が生じる。インパルスの発火頻度は、受容器電位の振幅にほぼ比例している(アナログ-デジタル変換)。

神経細胞は、一定の持続時間と振幅をもった1種類の活動電位しか発生しない(全か無かの法則)。つまり、神経系は情報論的には1ビット(0か1ということ)の信号を伝達できるだけである。神経系がこの0か1かの信号を意味あるデータとして情報化するには、インパルスを連続的に発生させその発火頻度を変化させることによっている(頻度符号化あるいは周波数変調)。

つまり刺激(強度)は、まずは受容器電位の振幅に、次に一次神経細胞の活動電位の発火頻度として写し取られて情報化される。神経内(軸索)では、その細胞膜の内外に生じる局所電流(イオン擾乱)によって活動電位が次々と伝播していき、末端で次の神経細胞に接続してその信号は伝達される。

さらに高次神経細胞では、統合(収束と発散、時間的・空間的加重、抑制など)によって下位神経細胞の活動電位のタイミングとその数量に対応することでデータの情報化が進み、最終的には大脳皮質で感覚情報として認知に供される。

一次神経細胞の神経繊維の伝導速度は、その直径(軸索の)と髄鞘による被覆の有無によって決まっている。直径が太いほど、伝導速度は速い。

神経伝導は、温度や麻酔薬や機械的な圧迫などによって伝導ブロック、興奮性の低下つまり活動電位の発火抑制が起こる。薬物では細い繊維から、圧迫では太い繊維から順にブロックされる。

ここまでは、神経痛とは何かを考える場合の最低限の基礎知識としての生理学のおさらいである。ポイントは、一次神経(繊維)内で伝わっているのは、連続して生ずるイオン擾乱による活動電位の伝播であり、その発火頻度が刺激の大きさに比例しているということである。

ここで神経痛とはどのような感覚なのかを考えてみる。
末梢知覚神経の障害の程度に応じて、
①感覚過敏や異常感覚(シビレ感や蟻走感)、
②神経痛、
③感覚麻痺
という段階が想定される。

感覚過敏は、受容器に加えられた刺激に比例しない高頻度の活動電位が生じている状況。異常感覚や神経痛は、受容器には何らの刺激も加わっていないのに活動電位が高頻度に生じている状況。感覚麻痺は、伝導ブロックが起こって活動電位の発生が抑制されあるいは伝導されなくなった状況。何れの場合も一次神経細胞、つまり末梢神経にのみ伝導ブロックという障害が生じている結果として想定される。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年11月18日 (火)

寒冷曝露と神経痛の増悪から考えること (2002/02/04)

◆腰椎椎間板ヘルニアの持ち主で症状がある人には、
 ① 腰痛(臀部も含む)だけの場合、
 ② 坐骨神経痛だけの場合(ほとんど腰痛はない)、
 ③ これらの混合型などがいる。
ヘルニアの出ている場所、出っ張り具合、ヘルニアが出てしまった椎間板組織の「傷」の状態などなどの様々な要因によって、腰痛が主の場合と、坐骨神経痛が主の場合などのタイプがあるのだと考えられる。

◆坐骨神経痛が主症状の方の場合、脚部が冷えると神経痛発作が誘発されたり、神経痛が増強されたりするのだが、なぜ脚部を冷やすと神経痛が出たり増強したりするのかについての説明には納得できるものがあまりない。
多くの場合、血液循環が寒冷によって鈍化してしまうから、などといった説明がされている。神経(束)が傷害されている部位が腰椎周辺部だとすると、脚部を冷やすとなぜ腰部の血行が阻害されてしまうのかが説明されないといけない。腰が直接冷やされれるのであれば話は簡単だが?

① 風呂上がりに坐骨神経痛が増悪すること
② 風呂上がりに下肢に「打ち水」をすると神経痛の増悪が抑制される(ことがある)こと
③ 下肢が寒冷に曝され冷えると神経痛が増悪すること
④ ふくらはぎの外側の坐骨神経の枝部位の神経に、直接到達するような圧迫や灼熱や電気などの刺激を加えると、即座に痛みが和らぐことがあること

これらの現象を、 「神経痛は、腰椎周辺部などで神経(束)が圧迫・絞扼され、神経(束)内のリンパ流や血流が阻害されて同部の周囲で鬱滞し内圧が上昇してしまう”傷害状態”が生じることで発生する」 とする仮説から統一的に説明できないだろうか?

◆この仮説から、下肢の冷却が神経痛を増悪させることの説明は、 下肢に走る坐骨神経の束の内部の循環量(血流もリンパ流も含め)が、寒冷曝露によって低下すると、より中枢側の”侵害状態”が生じやすくなっている隘路部では動脈性の鬱滞=充血によって内圧が高進し、”侵害状態”が生じて発現するのではないか、と想定できる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年10月12日 (日)

風呂上がりの坐骨神経痛の増強に「打ち水」が効果的なケースから考えられること (2001/11/12)

腰椎仮性すべり症による坐骨神経痛と診断されている60代の女性。 普段の歩行でも跛行(ビッコをひくこと)する。炊事の立位継続も30分ほどで休息を要する。

近くの温泉によく行くが、入浴中は痛みがかなり軽減して気持ちがよいが、帰宅する頃になると「ダル病み」が非常に強くなり、数時間続く。

従来から、坐骨神経痛の養生の原則として風呂は短めにと言われている。 暖まっていると痛みは和らぐが、冷めてくると痛みが増強する、と言われてきた。 「坐骨神経痛では風呂は短め」が何故なのか、理論的な説明は私の知っている範囲ではあまりなく良く解っていないようである。

温泉を上がるとき、冷水を臀部から脚にたっぷりと「打ち水」してはどうかと勧め、その結果、湯上がり時の神経痛の増強はほとんどなくなる(もっとも、治療の成果があがっており神経痛は半減していたが)。

ずっと昔、馬尾神経障害(脊椎の中が何らかの理由で狭くなって下肢を支配する神経が圧迫されて起こると考えられている)の外科手術所見の報告を読んだことがある。 神経の束の表面を走っている静脈が強く怒張(腫れ膨らむ)していた、との記載が印象に残っている。

神経痛の要因は様々である(神経痛の項参照)。神経の圧迫・絞扼、炎症、循環障害など言い尽くされているように思うが、実際の治療を考えるときに役に立つほどその機械的・物理的メカニズムは解明され尽くしていない。

比較的太い神経の束の中を栄養する血管には動脈系も静脈系もあるわけで、傷害状態となっている部分でのその「循環障害」の実態はどのようになっているのか、それが本当に知りたいことである。

脚が暖まってより多くの動脈血が末梢に循環すると、還流系である静脈やリンパもより多くの還流量が流れ込むわけで、その時に還流機能の相対的な機能低下がある部位の遠位端の血管や組織は怒張し内圧が高まるのではないか、それが神経痛の増強ではないか、という仮説。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

神経痛に対するお灸の効果 (2001/11/12) 

友人でご同業で思想家のM先生は、お若いとき発症した腰椎椎間板ヘルニアで重症の根性神経症状に苦しまれ、那珂川町のM先生のお弟子に手術を受けられる寸前で鍼灸に出会いこの道に入られた。

今でも「色々」と無理をすると腰痛や坐骨神経痛が出て辛いようで、灯油缶もご自分では運ばない運べない。
M先生は、お灸が大好きな「体験的お灸信奉者」である。
      
坐骨神経痛では、脚部の動脈系の循環が促進されるとかえって痛みが増強し、静脈系の機能促進で痛みが和らぐ、という前項の仮説が正しく、皮膚表面を焼灼 する灸がそのような病態に効果的であるとすれば、お灸は還流系の機能を改善することでその効能を現しているということができる。
ここまで辻褄が合ってくるといろいろな現象に合点がいく、と一人合点している。

      
神経痛や非炎症性自発痛の養生原則

「傷害状態」となっている部位の近位・中枢側(より身体中心に近い方)の端を境にして、遠位・末梢側は冷やす、近位・中枢側は暖める、という養生法はこれらの病症に想定する物理的メカニズムの仮説の理屈にかなっている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)